RZは、レクサス初の専用BEVとして登場した。総合的にはよくできたクルマだと評価している。ただ不満な部分もあった。それはエモーショナルな要素である。他のレクサス車で高い人気を誇るスポーティ仕様のFスポーツは未設定だった。
ただ、レクサスは忘れていなかった。それがRZ450e Fスポーツパフォーマンスである。このモデルは東京オートサロン2023でレーシングドライバー・佐々木雅弘選手がプロデュースしたRZスポーツコンセプトの量産仕様だ。
エクステリアはRZスポーツコンセプトのデザインを再現したエアロパーツ(17点)でRC Fを彷彿とさせるアグレッシブなスタイリングを演出。ボディカラーはLC EDGEに採用したマットホワイト(HAKUGIN)とブラックの2トーンを基調に電動車を示すダークブルーのアクセントをプラスした。
エアロパーツはエアレース・パイロットの室谷義秀選手とのコラボにより、航空機の空力技術を応用して開発。空気抵抗を悪化させることなくダウンフォースを増加させるために、CFD解析(流体解析)と実走を繰り返したそうだ。
インテリアはブラック×ブルーの専用インテリアカラーと加飾、ウルトラスエードのシート表皮など小変更レベル。個人的にはスポーツシートやスポーツステアリング、メーター表示といった専用アイテムがほしかった。
パワートレーンは前後モーター(フロント:150kW/266Nm、リア:80kW/169Nm)やバッテリー(リチウムイオン71.4kWh)は標準仕様から変更なし。動力性能と航続距離のバランスを考慮した結果だろう。駆動方式はAWD(DIRECT4)だ。
フットワークは専用セットアップのコイルスプリング(10mmローダウン)/ショックアブソーバー、専用のEPS制御、そして21インチのアルミ(ENKEI製)&タイヤ(フロント:255/40R21/リア:295/35R21、BSアレンザ)を装備している。走りのセットアップは佐々木雅弘選手とレクサス開発チームのコラボで行った。ニュルを模したトヨタの下山テストコースを走り込んで鍛えたそうだ。
Fスポーツパフォーマンスの試乗の舞台は開発のホーム・下山テストコースだ。
見た目がかなりアグレッシブなので、試乗前は「乗り味はかなりハード?」と予想したが、走り始めてビックリ!! RZが目指した「The Natural」の乗り味を損うことなく、「より意のままに曲がり」、「より楽しく安心」な1台に仕上がっていた。
ステアリング系は滑らかな操舵フィールはそのままに、薄皮を剝いだようなダイレクトさと直結感がとにかく頼もしい。最大の驚きはハンドリングで、ターンインではタイトコーナーがタイトに感じないくらいノーズがインを向く回頭性の高さ、旋回時は腰を中心に曲がる感覚と路面に張り付くような安定感を実感。さらにアクセルON/OFFでクルマの向きをコントロールできる自在性の高さ、そしてトラクションを掛けるとリアタイヤに荷重をグッと乗せて蹴り出す感覚が味わえた。SUVというより重量配分が整ったFRスポーツのような走行フィールだ。
下山テストコースはニュルを模したレイアウトで、ジャンピングスポットや前後/左右/上下と三次元的なGが掛かるコーナーが多い。そんな状況でもクルマの動きは終始ピターっと安定、雨のハイスピードドライブでもドキッとする挙動は皆無だった。
これらはエアロパーツによる空力バランス改善と前後バランスを整えたサスペンションセットの相乗効果だろう。個人的には、4本のタイヤをより上手に使えるようになったことで、DIRECT4の効果がより明確化したと分析する。
快適性はスポーツモデルとしては高レベル。標準モデルと比べると引き締まっているものの、カドが取れた入力と想像以上のストローク感、そしてバネ上のフラット感など、速度域によってはノーマルよりも快適に感じた。クルマの無駄な動きを空力で抑えているので、足回りを必要以上に硬める必要がないのだろう
システム出力は標準車と共通の230kW。走りのパフォーマンスに不満はない。が、シャシー性能がレベルアップしたことで欲が出るのも事実。スポーツモードはモーター制御の自在性や出力の出しやすさを活かした「アメージング」な特性が似合いそうだ。また、BEV=無音ではなく「音」のチューニングにも期待したい。
Fスポーツパフォーマンスは、RZの潜在能力を量産の域を超えてフルに引き出した実験的モデルだ。とはいえRZの世界観を損なっていない。まさに「大人スポーツ」に仕上がっている。個人的には限定100台はちょっと少ない気がした。
RZには、Fスポーツパフォーマンスに先駆けて、2023年11月にRZ300eが追加されている。RZ300eはフロント150kWのシングルモーター仕様のFF駆動となる。RZの課題のひとつ、航続距離をより重視したグレードといえるだろう。
RZ450eからリアモーターを外した結果、車両重量は100kg軽量の1990kg。バッテリーはRZ450eと同じ71.4kWhだがインバーターに電力ロスの少ないSiC(シリコンカーバイド)素子を採用。1充電走行距離599kmを実現している(RZ450eは499km)。さらに急速充電速度向上に寄与する電子急速昇温システムの採用で、「低外気温化での急速充電時間」の短縮も図った。
シングルモーター化に合わせ、スプリング/ショックアブソーバー/スタビライザーは最適化され、リアのサスペンションメンバーは新規で開発。タイヤは18インチがデフォルトだ。
試乗前は「DIRECT4がないRZなんて……」と思っていたが、試乗後は「ほー、いいじゃないか」というのが素直な印象。モーター出力は150kWだが100kg軽量なのでパフォーマンスに不満はなし。FFのBEVで感じられる前後方向のピッチングは最小限だ。
ハンドリングはDIRECT4のような驚きはないものの、FFながらも旋回時の姿勢は良好。フロントタイヤ依存ではなくリアを上手に使いながら綺麗に曲がってくれる。快適性もエアボリュームの高い18インチの50タイヤがいい仕事をしており、路面へのアタリ、足の動き、ショックの吸収性などすべてが優しく、電子制御ダンパー(AVS)いらずだ。無理をせずピュアでスッキリした走りは、個人的に「DIRECT2」と呼びたい。
価格はRZ450eに対して60万円安い820万円。もう少し安いほうがRZ450eとの違いを明確にできそうな気もするが、RZをファーストカーとして使いたいユーザーにとっては現時点でのベストチョイスかもしれない。
グレード=RZ300e
価格=820万円
全長×全幅×全高=4805×1895×1635mm
ホイールベース=2850mm
トレッド=フロント:1610/リア:1620mm
車重=1990kg
モーター型式=交流同期電動機
モーター最大出力=150kW(203.9ps)
モーター最大トルク=266Nm(27.1kgm)
一充電走行距離=599km(WLTCモード)
駆動用バッテリー=リチウムイオン電池
駆動用バッテリー総電力量=71.40kWh
サスペンション=フロント:ストラット/リア:ダブルウィッシュボーン
ブレーキ=フロント:リア:ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=235/60R18+アルミ
駆動方式=FF
乗車定員=5名