1989年。スカイラインGT-Rが16年ぶりに復活。R32スカイラインに最強グレードGT-Rが登場した。GT-Rはハコスカ時代と同様にモータースポーツシーンを席巻したのみならず、スピードを好む街道レーサーたちをも狂喜乱舞させた。それまでポルシェに代表する「金持ち用スポーツカー」に牛耳られていた湾岸レースのようなアンダーグラウンドシーンの様相が、BNR32の出現で一変した。
GT-Rを軽くチューンすればポルシェに勝てる。電子制御トルクスプリット4WDと2.6リッター直6ツインターボエンジンを得たGT-Rは、事実、ライトチューンであってもポルシェ・ターボについていけたし、抜群の安定感で腕と度胸次第では金持ちを唖然とさせることができた。なにしろ300km/h超えも決して非現実ではなかった。
つい最近もBNR32のライトチューニングカー(400psぐらい?)をドライブする機会に恵まれた。いまとなってはコンパクトなサイズと、ストレート6ターボの官能的で力強いエンジンフィール、そしてコツさえ掴めば自在に操ることのできるハンドリング性能に感心した。
スカイラインをベースに開発された第2世代のGT-Rは、BNR32の次に、BCNR33(1995年)からBNR34(1999年)へと進化する。パフォーマンス・コンセプトは基本的に3モデルとも共通だった。それはあたかもメーカー自身のチューニングバージョンのように進化した。乗り味もまた大きくは変わらない。
BNR34のユーズドカー相場が現在、天文学的な数字になっていることは、最も生産台数が少なかった事情もさることながら、それが第2世代の集大成でもあったからに違いない。
BNR34の生産は2002年8月をもって終了する。実はそれ以前の2000年から日産は次期型開発への意欲を見せている。2001年秋の東京モーターショーで「GT-Rコンセプト」を展示し、未来のあることを示唆していた。
2003年、次世代GT-Rを4年後には市場投入すると当時のトップだったカルロス・ゴーンが宣言すると、開発が本格スタートした。期待は膨らみ走り屋たちのボルテージは一気に上がる。2005年、こんどは市販モデルに近い「GT-Rプロト」デビュー。そして2007年、いよいよ市販モデルがデビューする。R35日産GT-Rである。
いまいちど市井の走り屋たちの言葉を借りると、R35GT-Rは今度こそ「ツルシのままで(つまりチューニングしなくても)世界の高性能スポーツカーと互角に渡り合えるマシン」だった。否、実際のところ渡り合えるどころか多くの高級スポーツカーたちがその後塵を拝することになる。とあるメーカーのエンジニアなどは、重量級のマシンが途轍もない加速を見せることに「信じられない」を連発した。海外のエンジニアやジャーナリストに対して日本人として誇らしく日本車について語れたことは後にも先にもR35のデビュー時だけだ。
正式発表の直前、筆者はアウトバーンで生まれたてのR35をドライブする機会に恵まれた。小雨のぱらつく中いとも簡単に300 km/hに迫った実力に、大いに興奮した。250km/hを超えるとワイパーがまともには動いてくれないということを初めて知った。
そんなR35のモデルライフは実に16年間にわたっている。2024年秋には17年目を迎える。思い出してほしい、第1世代のスカイラインGT-R(ハコスカとケンメリ)が終わって16年後に第2世代のBNR32が登場したことを。そしてKPGC110(ケンメリ)とBNR32のパフォーマンスの違いを。
そしてこれが最も素晴らしいことなのだが、R35は現在に至ってもなお、世界最高レベルのパフォーマンスを誇るマシンであり続けている。その進化は決して止まることをしらず、つねに高性能車界のトップレベルに君臨し続けた。2007年の登場以来、R35がこと絶対的なパフォーマンスにおいて「時代遅れ」だといわれたことは一度もない。
その象徴ともいうべき存在が、生き残りをかけて細部まで手を入れられた最新(MY24)のGT-Rニスモである。
R35はMY13ごろからコンセプトを少し変えて、その名称どおり「GT」と「R」のそれぞれに重きを置いた2系統のモデル作りを始めた。その集大成として登場したのがGT寄りのTスペックと、R寄りのニスモだった。とはいえニスモもまたGT-Rであることには変わりない。つまり格別のグランドツーリングカーである。
ニスモの本領発揮はもちろんサーキットである。けれどもサーキット用に鍛えられたシャシーとエアロダイナミクスは高速道路のクルージングでも効果を発揮する。ダウンフォースがきき、サスペンションシステムがそれを緊張感を持って受け止めることで、極上のグランドツアラーになる。
最近のGT-Rに特徴的なこととして、扱いやすくなったステアリングシステムを挙げることができるだろう。初期型はとかく曲げづらいクルマだったが、最近はフロントアクスルの自由度が高まり、少なくともドライバーには自在に動かせているという実感がもたらされる。これは大きな進化である。R35はもう少し生産されマニアを魅了するだろう。まるでカウンタックのようである。
グレード=NISMOスペシャルエディション(2024年モデル)
価格=6DCT 2915万円
全長×全幅×全高=4700×1895×1370mm
ホイールベース=2780mm
トレッド=フロント:1600/リア:1600mm
車重=1720kg
エンジン=3799cc・V6DOHC24Vツインターボ(プレミアム仕様)
エンジン最高出力=441kW(600ps)/6800rpm
エンジン最大トルク=652Nm(66.5kgm)/3600~5600rpm
WLTCモード燃費 /リッター=未公表(燃料タンク容量74リッター)
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=フロント:255/40ZRF20/リア:285/35ZRF20+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=4名
最小回転半径=5.7m