GRヤリスのマイナーチェンジモデルがいよいよ発売。新開発8速ATのGR-DATを新採用したほか、コクピットの視認性と操作性の改善、G16E-GTSエンジンの出力向上、エクステリアデザインの一部変更、サーキットモードの新設定などを実施。車両価格は448~533万円に設定
TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は2024年3月21日、進化したGRヤリスを本年4月8日に発売すると発表した。
車種展開および車両価格は以下の通り。
RZ“High performance”:6MT(iMT)498万円/8AT(GR-DAT)533万円
RZ:6MT(iMT)448万円/8AT(GR-DAT)483万円
「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を実践して開発されたGRヤリスは、2020年9月の発売以降も様々なモータースポーツへの参戦を継続。極限の環境で「壊しては直す」を繰り返し、プロドライバーや評価ドライバー、マスタードライバーのモリゾウこと豊田章男会長などからのフィードバックを反映して「ドライバーファーストのクルマづくり」を実施する。今回の改良では、車両を限界まで追い込んでくれたドライバーへ「壊してくれてありがとう」を合言葉に、パワーユニットはもちろん、ボディや内外装などにも意見を反映し、車両性能の総合的な向上を図った。
進化のポイントを解説していこう。
まず、「より多くの方に走る楽しさを提供し、モータースポーツの裾野を広げたい」というモリゾウの想いの下、「幅広いドライバーがスポーツ走行を楽しめ、レースでMTと同等に戦えるAT」を目指して新開発した8速ATの「GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission)」を追加設定する。AT制御ソフトウェアは、スポーツ走行用に最適化。従来は減速Gや速度などの車両挙動を感知し変速させていたところを、ブレーキの踏み込み方・抜き方、アクセル操作まで細かく感知し、車両挙動の変化が起こる前に変速が必要な場面を先読みすることで「ドライバーの意思を汲み取るギア選択」を成し遂げ、プロドライバーによるシフト操作と同じようなギア選択を可能とした。また、AT内部の変速用クラッチに高耐熱摩擦材を採用したほか、AT制御ソフトウェアの改良を図って、世界トップレベルの変速スピードを達成。さらに、6速MTから8速ATへ多段化するとともにクロスレシオ化して、パワーバンドを活かした走りを実現する。RZ“High performance”には、アクセル操作による駆動力コントロールの性能向上を狙って前後トルセンLSDも組み込んだ。なお、GR-DATの開発に当たってはモータースポーツの現場や様々な道での実証走行を実施。TGR World Rally Teamのドライバーがフィンランドの雪道など様々な路面で走り込みを行ったほか、プロのラリードライバーによって全日本ラリー参戦に挑戦する。また、トヨタ自動車の早川茂副会長をドライバーに据えて、初心者でも気軽に楽しめるTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジへ参戦したほか、モリゾウ選手をドライバーとしてスーパー耐久シリーズへ参戦するなど、プロドライバーのみならずアマチュアドライバーの走行を通じ「壊しては直す」を繰り返すことで、幅広いユーザーが楽しめる速さと信頼性を実現したという。
次に、視認性と操作性をいっそう磨き上げた“ドライバーファースト”な専用コクピットの採用。スーパー耐久シリーズ参戦車および全日本ラリー参戦車をモチーフに、操作パネルとディスプレイをドライバー側へ15度傾けて設置することで、視認性と操作性を改善する。また、スポーツ走行時のみならず日常走行でも使いやすいスイッチ類の配置にもこだわった。具体的には、ドライビングポジションを25mm下げ、合わせてステアリング位置も調整することにより、ドライビング姿勢を改善。また、インナーミラーの取り付け位置をフロントガラス上部に移動させ、さらにセンタークラスターの上端を50mm下げることにより、前方視界を拡大する。さらに、GR-DAT車は現行のCVT搭載モデルであるGRヤリスRSよりシフトレバーを75mm上昇させ、GRヤリスMTモデルのシフトレバーと同等の位置に配置して操作性を向上。同時に、ラリーやジムカーナでの車両コントロール用途を視野に置いて、GR-DAT車にも手引き式パーキングブレーキを配備した。加えて、Mモードでのシフトレバーによる変速操作の向きを、モータースポーツからの学びを活かして従来から反転。車両挙動に合わせて引き操作でシフトアップ(加速)、押し操作でシフトダウン(減速)へと変更し、レーシングカーのシーケンシャルトランスミッションのような操作性を実現する。一方、ドライバーディスプレイにはプロドライバーの意見を取り入れながら、スポーツ走行に必要な視認性と車両情報にフォーカスした新デザインの12.3インチフルカラーTFTメーターを導入。GR-DAT車ではAT油温の表示を追加したほか、シフトダウン操作時に回転数が高すぎるためシフトダウン出来ない場合に従来の警告音のみによる通知から、メーター内のギアポジション表示にも警告を追加する。この変更は、「ヘルメットを着用する競技中も警告を分かりやすくしてほしい」といった、試作車を用いて参戦した全日本ラリーのドライバーからの要望を反映した結果だという。
モータースポーツでの戦闘力向上を目的に、動力源であるG16E-GTS型1618cc直列3気筒DOHCインタークーラーターボエンジンの改良も図る。最高出力は従来の272ps/6500rpmから304ps/6500rpmへとアップ。さらに、最大トルクは従来の370Nm(37.7kg・m)/3000~4600rpmから400Nm(40.8kg・m)/3250~4600rpmへと引き上げた。
モータースポーツ現場の声を反映して、エクステリアの変更も実施する。ロアグリルには薄型・軽量化と強度を両立するスチールメッシュを、バンパーロアサイドには分割構造を新たに採用。モータースポーツ参戦時に石などの飛来物による損傷があった際の復元・交換作業を容易にし、かつ修復費用の低減にもつなげる。また、サイドロアグリルは開口部の大きい形状に刷新し、高い冷却性能を確保。合わせて、バンパーサイドにアウトレットを設けることで、サブラジエーターおよびATFクーラーの熱を効果的に排出する。さらに、リアロアガーニッシュ下端に設けた開口部より床下からの空気を抜くことで、空気抵抗を下げ操縦安定性を向上させるとともに、マフラーの熱を排出。加えて、モータースポーツ参戦中の損傷回避と視認性を考慮して上下リアランプ類を集約し、同時にハイマウントストップランプとリアスポイラーを分けることで、リアスポイラーのカスタマイズ性を拡張した。一文字に繋がる一体感のあるテールランプに仕立てることで、一目で新しいGRヤリスであることが分かる個性を表現したことも、エクステリアの訴求点である。
シャシーおよびボディについては、よりハードな走行に耐えるための強化を図る。まずシャシー面では、ボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本から3本に変更。走行中のアライメント変化を抑制することで、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性を高め、操縦安定性を向上させる。一方でボディに関しては、スポット溶接打点数を約13%増加。合わせて構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大することにより、ボディ剛性を高め、操縦安定性と乗り心地をレベルアップさせた。
冷却性能を高める「クーリングパッケージ」を設定したことも注目ポイント。エンジンの高出力化やGR-DATの追加設定に伴い冷却性能の向上が必要となったため、GR-DAT車にはATFクーラーを標準で採用。さらに、モータースポーツへの参戦を考慮してサブラジエーター、クールエアインテーク、インタークーラースプレーを新たにクーリングパッケージとしてメーカーオプション設定した。
従来の4WDモードセレクトに加えて、スポーツ走行と日常生活での使い勝手を両立する「ドライブモードセレクト」を新たに組み込んだ点も見逃せない。ユーザーの好みや参戦するモータースポーツの特性に合わせて、電動パワーステアリング、エアコン、パワートレーンの設定変更を可能とする。モードとしては、スポーツ走行を想定したSPORT、市街地からワインディングまでの走行を想定したNORMAL、市街地の走行を想定したECOを設定した。
走行モードとしては、公道では味わえない非日常的な躍動が体験できる「サーキットモード」も新規に設定する。GPSによる位置判定よりサーキットなどの利用可能エリアに入ると、再加速時のアクセルレスポンスを向上させる目的でターボラグを低減させるアンチラグ制御、スピードリミッター上限速度の引き上げ、クーリングファンの最大化、最適なタイミングのシフト操作を視覚的に伝達・サポートするシフトタイミングインジケーターなど、GRヤリスのポテンシャルを最大限に引き出す機能によって、サーキット走行が存分に楽しめる。各機能は、スマートフォンアプリ上でユーザーの好みに合わせたカスタマイズが可能である。
通常モデルの進化に合わせて、モータースポーツ参戦車両のRC(6MT349万円/8AT384万円)も同様のマイナーチェンジを実施。サスペンションおよび電動パワーステアリングには専用チューニングを施し、また制振材・遮音材・消音材を省くとともに、ヘッドランプにはプロジェクター式ハロゲンヘッドランプを組み込む。オプションとして、競技中の操作性を向上させる縦引きパーキングブレーキも新設定した。