マラネッロが供給するマセラティ向けV8エンジンの生産が2023年12月をもってついに終了した。最後となったマラネッロ製V8エンジンは、2013年からギブリやクワトロポルテに搭載された3.8リッターツインターボだ。型式名は「F154」とフェラーリ用モデルと同じながら、クランクシャフトはフラットプレーン式ではなくクロスプレーン式、潤滑システムもドライサンプではなくウェットサンプである。
マセラティは今後、自社製V6エンジンのネットゥーノと、フルバッテリー駆動(BEV)を主軸にモデルを展開する。つまりV8を積む市販ロードカーはクワトロポルテ、ギブリ、レヴァンテが最後となる。
中でも注目は最終限定車として登場したギブリ334ウルティマとレヴァンテV8ウルティマだ。ギブリは103台(ペルシャブルー)、レヴァンテはネロ・アッソルト(黒)とブル・ロワイアル(青)の2色で103台ずつ計206台の限定となる。
ちなみに103という数字は1959年に登場したマセラティ初のV8モデル、5000GTのプロジェクト名で、334はその累計生産台数を表す。さらにギブリのペルシャブルーはレース用V8エンジンを積んだ豪華なGTカーというアイデアを思いつき最初に5000GTをオーダーしたイラン国王向け1号車にちなんだカラーだ。また334はセダン最速となる最高速度334km/hのダブルミーニングでもある。
昨年のクリスマス前、北イタリアの雪山に特設された雪上コースにおいて最後のV8マセラティを堪能する機会を得た。メイン試乗車はクワトロポルテ・トロフェオとギブリ・トロフェオのFRセダンとレヴァンテV8ウルティマだ。
最も楽しかったのはギブリ。334ウルティマではなかったが、雪上でのドライブフィールは実に素晴らしい。個人的にはギブリ・トロフェオは現在のマセラティの中で最もホットな1台だと思っている(何ならミッドのMC20以上に!)。V8のパワーとサウンドを楽しみつつコンパクトなボディを振り回す。その意のまま感は随一だ。
とはいえ雪上で最もバランスよく操れたのはクワトロポルテだった。ホイールベースが長くて重量配分的にも微妙なコントロールがしやすかった。
ギブリもクワトロポルテも、V8トロフェオは踏み込んだときに右足裏を通じて感じる力強さがすさまじく強い。力をみっちり溜め込んだパワートレーンを手足で感じることができる。そんなドライブフィールがもうなくなってしまうとは、寂しすぎる!
イベント終了後、吹雪く山道をホテルまでレヴァンテV8ウルティマを駆った。レヴァンテもV8を積んだモデルが最も刺激的だと思う。背が高いGTとして、加速・ハンドリングともに一級品だ。道路状況が不安定な中でも安心して操縦が楽しめる。低速においてもうっとりするようなサウンドを響かせるV8エンジンにほれ直す。これで最後だと思い出し、エンジンスイッチを切ることがためらわれた。