【竹岡圭 K&コンパクトカー ヒットの真相】ホンダN-BOX「独自のユーティリティ性と確かな走行性能」

ホンダのN-BOXが2023年10月に3代目へとフルモデルチェンジを行った。これまでの累計販売台数は2023年末時点で最速で250万台を突破。さらに暦年の軽四輪車新車販売台数は9年連続首位を獲得しており、そこにはきっとビッグヒットの理由がたくさん詰まっているはずだ。

唯一無二の「チップアップ&ダイブダウン」対応リアシート

「NEW NEXT NIPPON NORIMONO」というキャッチフレーズで、2011年末にデビューしたホンダN-BOX。歴史を遡ればホンダの「N」は、1967年に登場したN360が原点。だからこそのNEWなわけですが、N360時代の「N」は「NORIMONO」のNだったと、ホンダのホームページには書いてありました。

 新世代「N」の始まりは2011年登場のN-BOXから。そこから現在のNシリーズがスタートするわけですが、初代N-BOXのインパクトはスゴかった。とにかく四角さが強調されたクルマという印象でした。

 当時はまだ、ここまで軽スーパーハイトワゴンは全盛ではなかったのですが、思えば初代N-BOXを機にこのカテゴリーが躍進していったような感じもあります。そういう意味では、いまの軽自動車の流れを作った立役者といってもいいかもしれません。

 そして、ライバルと比べても、群を抜いて四角さが強調されているのがN-BOXの最大の特徴であり、だからこそできること、心配なこともあったりするわけです。

 まず、できることから挙げますと、後席のチップアップ機能。これは全軽自動車の中で、N-BOXというか、Nシリーズにしかできない特技です。というのも、通常後席の下には燃料タンクがあるから。N-BOXは床下に薄い燃料タンクが置かれたセンタータンクレイアウトを採用しているため、後席位置のレイアウトの自由度が高いことに加え、後席座面をチップアップさせることで、高い室内高をいっそう活用できるシートアレンジが可能なんです。

 ラゲッジスペースよりも高さが稼げるので、高さのあるものをココに搭載したり、立ったまま子供を着替えさせたりと、使い勝手のフレキシブルさが高いのが優位点となります。

 ちなみに初代は、後席がスライドレスだったので、小学生以上のお子様を持つご家庭向けなんていわれましたが、2代目からはスライドも取り入れ、助手席のロングスライドを加えたグレードも用意。トライアングルポジションで座ることで、ドライブ中に誰も寂しくないという、独自のアレンジ性も手に入れたと思っていたのですが……。この3代目には反映されなかったのは、あまり人気がない機能だったのかもしれませんね。

 その代わりといってはなんですが、3代目は助手席前のグローブボックスが2倍の大きさに拡大しているそうです。

 さて、心配なことというのは、背の高さゆえの運動性能でしょうか。余計なお世話と言えばそうなのですが(笑)、正直初代はロールもかなり大きく、ウ~ムという感じだったんですよね。これが、2代目になってグッと進化し、さらに成熟が進んだというのが今回の3代目の最大のポイントだと思います。

 とはいえ、何をどう変えたのか目に見えにくいので、伝わりにくいですよね。初代から背が高いわりに安定感がきちんと表現されたデザインなのは、ミニバンをたくさんリリースしているホンダ・デザインならではの秘密が詰め込まれた美点なのかもしれません。ですが、とくに2代目と3代目はほぼ間違い探しといってもいいほど見た目の代わり映えがしません。

 人気があるものを特段変える必要はないという考え方もありますが、プラットフォームやパワートレーン系でも目に見えてわかりやすい進化がないので、いったい何のフルモデルチェンジなの? と思っている方もいらっしゃると思います。

 でも、乗ると確かに進化が感じられるんです。全体的な走りのしっかり感がグッと増しているんですよね。この秘密は、どうやら工場の組み立てレーンレベルでしか行えない、組み立て方の進化が施されているというのが真相らしいんです。

 たとえば、〇〇と△△はプラットフォームが同じとか、ベースが同じということがあります。なのに、出来上がりはまったくの別物になる。これ、実はいちばん違いが現れるのはボディの下ごしらえの部分。共通のベースを受け取ってから、どこをどう強化するか、いかに仕上げていくかで出来上がりがまったく変わってきてしまうからなんです。

 この説明をするときに私がよくたとえるのが「肉じゃがを作るのにただ皮をむいて煮込むと煮崩れてしまいますが、キッチリ面取りをして煮込めば、料亭で出てくるようなまったく煮崩れていない肉じゃがができる」というお料理の話。やはり基本が大切なんですよね。

 フルモデルチェンジというと、新デザインとか飛び道具的な新装備というのも楽しみのひとつではありますが、見た目は変わらないけれど、乗ると明らかに旧型とは異なるということこそが、真の正常進化なのかもしれません。

 とくにN-BOXは、箱という空間を提供するモデルなので、基本はバッチリ仕上げたのであとはみなさんご自由にどうぞということなのでしょう。この絶妙な「緩さ」がヒットの真相なのかもしれません。

N-BOX「ヒットの真相」

1)軽スーパーハイトワゴンの礎を築いた1台。3代目のデザインはキープコンセプトで走りに磨きをかけ、ホンダらしさをアピール

2)軽自動車の中でもN-BOXにしかできないチップアップ&ダイブダウン機構付きスライドリアシートを採用。使い勝手に優れる

3)背が高いわりにデザインで安定感をきちんと表現。ユーザーが自由に箱の空間を楽しめるように、内外装はシンプルに

■主要諸元
グレード=N-BOX カスタム
価格=184万9100円
全長×全幅×全高=3395×1475×1790mm
ホイールベース=2520mm
トレッド=フロント:1305×リア:1305mm
最低地上高=145mm
車重=920kg
エンジン(レギュラー仕様)=658cc直3DOHC
内径×行程=60.0×77.6
圧縮比=12.0
型式=S07B
燃料タンク容量=27リッター
最高出力=43kW(58ps)/7300rpm
最大トルク=65Nm(6.6kgm)/4800rpm
WLTCモード燃費=21.5km/リッター (市街地/郊外/高速道路:18.8/23.3/21.7)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:トーションビーム
ブレーキ=フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ドラム
タイヤ&ホイール=155/65R14+アルミ
駆動方式=FF
乗車定員=4名
最小回転半径=4.5m

今回の試乗車
N-BOXカスタム(NAエンジン、FF、価格:184万9100円)はシリーズの中でもシャープでスタイリッシュな内外装が特徴。ボディカラーは有料色(3万3000円)となるトワイライトミストブラックパール。メーカーオプションとして、リア右側パワースライドドア+運転席&助手席シートバックテーブル+マルチビューカメラシステム(13万9800円)、N-BOX専用9㌅ホンダコネクトナビ(23万5400円)、ディーラーオプションとして、ETC車載器ナビ連動式(1万9800円)、フロアカーペットマット(2万7500円)、ドライブレコーダー(6万7100円)などを装備。オプションを含む車両総額は237万1700円である

たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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