クラウン・スポーツは、4種の新型クラウンの中でも、まるでコンセプトカーのような大胆なスタイリングで、ひときわ異彩を放っている。スポーツのフォルムは、伸びやかな印象のクロスオーバーに対し引き締まった印象が強い。全長とホイールベースを縮めてオーバーハングを短くした効果で凝縮感もある。中でも「大きなタイヤが四隅で踏ん張っている様子を表現するために必須だった」というリアフェンダーの凝った造形は圧巻。特別な工法と最新のシミュレーション技術を駆使して実現している。これを1枚のパネルでやってのけたことに大いに驚いた。トヨタ生産技術の高さを象徴している。
インテリアも凝っている。基本的な造形はクロスオーバーと共通ながら、思い切ったアシンメトリーなカラーコーディネートを採用。スポーティでスペシャルティな雰囲気を巧みに演出した。内外装デザインには20代の若いデザイナーが深くかかわっているそうだ。クラウンがテーマとする 「革新と挑戦」の言葉どおり、積極的に新しいことにチャレンジしているのが興味深い。
ドライブフィールは軽やかで楽しく、上質ながら刺激的だ。PHEVはクラウン・スポーツのイメージリーダー。2.5リッターのHEVを基本に、もうひとつ特色のあるユニットを用意するというクラウン・シリーズの方針に則して、ラインアップされた。
走り優先のキャラクターを考えるとクロスオーバーと同じ2.4リッターターボのHEVも似合いそうだが、開発陣には「モーターを駆使してキビキビと走れるクルマを作りたい」という強い思いがあり、スポーツはPHEVという判断がなされたようだ。
PHEVは、EVモードでもストレスを感じないパフォーマンスと力強さを実現しており、最大で90km、エンジンをかけずに走れる。ハイブリッドモードに切り替えると適宜エンジンが始動。モーターの力にエンジンパワーが加わって、一段とパワフルな走りが楽しめる。瞬発力も高い。同じシステムを搭載する先発車種よりもパワーを高めたのが効いているに違いない。また、トヨタのPHEVとしては珍しく急速充電に対応していることも特筆できる。
足回りの仕上がりにも感心した。開発陣は「硬いだけがスポーツではない」をテーマに、新たなスポーツフィールを追求した。スポーツは、ホイールベースとオーバーハングが短くなったことで、物理原則どおり回頭性が高まっている。その利点を活かしたうえで、後輪を操舵する「DRS」と、左右後輪のベクタリング機構を備えた4WDシステムを搭載。どの速度域でも応答遅れのない俊敏なハンドリングを誰でも感じられるようにチューニングした。
乗り心地面では、サスペンションの摩擦を低減し、路面からの入力を巧くいなすように作り込んだという。HEVには未設定のAVSと呼ぶ電制ダンパーをPHEVは標準で装備。これも乗り心地面ではプラスをもたらした。こうして、しなやかによく動きながらもコーナリング時のロールは抑えられ、フラットで安定した姿勢を実現した。まさに意のままに操れる感覚が強い。ターンインでの舵角が小さく、コーナリング中の修正舵が少なく、立ち上がりではより早いタイミングでアクセルを踏んでいける。PHEVは実に気持ちよく走れる。
フロントに対向6ピストンキャリパーを装着したブレーキも申し分ない。ダイレクト感があり、車両重量の大きなクルマながら、なんら不安なく走れる懐の深さを感じる。ブレーキフィールも回生していることを感じさせないほど違和感が小さい。
今回は一般路での試乗となったが、ワインディングロードに持ち込んでもさぞかし楽しそうな雰囲気を感じた。それもそのはず開発の最終段階で、岡山国際サーキットでテストし、開発ドライバーの厳しい指摘を受けてセッティングを煮詰め直したそうだ。その努力もあって、ハイレベルの走りが実現したわけだ。なお、サーキットでテストしたのはPHEVのみで、HEVではそこまではやっていないそうだ。いかにPHEVに力が入っているかを物語るエピソードである。
安全装備にも感心した。最近のトヨタ車に順次採用している、周囲の状況に合わせて先読みしてブレーキや操舵を支援するというプロアクティブドライビングアシストを試したところ、先発の車種よりも作動時の違和感が薄れ、メリットのほうがずっと大きく感じられた。とくに前走車との安全な車間距離を保つ制御は秀逸だ。この機能はウデに覚えのあるドライバーには不要という声もあるが、一般的なドライバーにとっては間違いなく恩恵をもたらすに違いない。
スポーツはユーティリティ性能もなかなかだ。室内は大人4名がゆったりとくつろげ、荷室容量など多少割り切っている面も見受けられるが、不便に感じることのない広さを確保している。セダンタイプのクロスオーバーに対し、リアゲートを備えるのもメリットだ。
4シリーズで構成する新型クラウンの中で、とりわけスポーツはコンセプトが明確。見てカッコよく、乗って楽しく、所有する歓びも大きい。まさに開発責任者が述べていたとおり独特の世界観がある。
PHEVの価格は765万円。絶対的には高価だが、輸入車と比較すると大幅にリーズナブルだ。HEVの175万円プラスでこのバリューが手に入るのなら、PHEVを選びたくなった。
グレード=RS
価格=THS 765万円
全長×全幅×全高=4720×1880×1570mm
ホイールベース=2770mm
トレッド=フロント:1605/リア:1615mm
車重=2030kg
エンジン=2487cc直4DOHC16V(レギュラー仕様)
最高出力=130kW(177ps)/6000rpm
最大トルク=219Nm(22.3kgm)/3600rpm
モーター最高出力=フロント:134kW(182ps)/リア:40kW(54.4ps)
モーター最大トルク=フロント:270Nm(27.5kgm)/リア:121Nm(12.3kgm)
WLTCモード充電電力使用時走行距離=90km
WLTCモードハイブリッド燃費=20.3km/リッター(燃料タンク容量55リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路:17.5/21.5/21.0km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=235/45R21+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名
最小回転半径=5.4m