「セダンが不遇の時代を迎えた」といわれて久しい。しかも、自動車界は100年に一度の大変革期に突入している。電動化に向けた動きが急加速しているまっただ中で、メルセデス・ベンツがセダン中心の中核モデル、Eクラスをフルモデルチェンジした。新型は全車がハイブリッド化されているものの、これは「全車がエンジンを搭載している」という意味の裏返しでもある。エンジンを愛して止まないメルセデス好きにとって、これほどうれしいニュースはそうそうないといっても過言ではないだろう。
しかも、メルセデスは「手抜きのモデルチェンジ」ではなく、しっかりと練りに練った新型Eクラスを市場に放った。
プラットフォームには現行Sクラスと同じMRA2を用いる。だが、これは主にメカニズムに関する話。実は、クルマのプラットフォームにはメカニズム的側面と電気的側面のふたつがあり、Eクラスの場合はこのうちの電気系プラットフォームが大幅にアップデートされた(メーカーによってはメカニズムと電気のプラットフォームが一体化しているケースもある)。
具体的には、現在メルセデスが開発中の新しいビークルOS(車載のコンピュータ・システムを稼働させる基本的なソフトウェア)の一部をインフォテインメント系に用いたという。ダッシュボード全体を3枚のディスプレイで覆ったかのようなMBUXスーパースクリーンが電気自動車のEQシリーズ以外で初めて設定されたのは、新しい電気系プラットフォームを採用したことと深い関係があるはずだ。
パワートレーンはマイルドハイブリッド(MHEV)もしくはプラグインハイブリッド(PHEV)となった。日本に導入されるのは、2リッターガソリンの200/300(ワゴンのみ)、2リッターディーゼルの220d、そして2リッターガソリンにPHEVシステムを組み合わせた350e(セダンのみ)の4タイプ。すべて4気筒となることも象徴的だが、これは新型Eクラスが「エンジン車とBEVの架け橋としての役割」を担っていることを考えれば当然といえる。
外観は、いかにもメルセデスらしいオーソドックスなプロポーション。ただし、ボディを間近で見ると、パネルの面精度が大幅に向上している。パネル間のすき間もより狭まっていて、全体的なクオリティ感は格段に上がっている。
インテリアも質感の改善が図られているほか、デザイン面の進化が顕著。前述したオプション装備のMBUXスーパースクリーンを含め、プレミアム感と未来感がうまく融合した世界を作り上げている。
メインで試乗したのはPHEVの350e。満充電時のEV走行可能距離は97kmに達する。イグニッションボタンを押しても、ディスプレイにさまざまな表示が浮かび上がるだけで、エンジンは始動しない。これは、車載バッテリーの電力を優先的に消費してCO₂排出を抑制しようとする手法で、PHEVモデルに共通した特徴だ。
Dレンジを選んでアクセルペダルを踏み込めば、実質的にほぼ無音のまま、E350eはスルスルと走り出す。その乗り心地は、メルセデスらしい優しさが感じられる快適なもの。昨年7月の国際試乗会でステアリングを握ったモデルは、もう少しピッチングに対して寛容でさらにソフトな足回りだったが、それに比べると日本仕様はフラット感が少し強め。その分、ややソリッドな乗り心地に感じられた。伝統的なメルセデス・ファンにとっては、国際試乗会で味わった「ゆったりとピッチングする」足回りがお好みかもしれないが、安心感や高速ツーリングでの疲労度という点でいえば日本仕様に軍配が上がる気がする。いずれにせよ、その差はごくわずか。本質的に快適性重視のサスペンションであることは間違いない。
しかも、ワインディングロードを走ると、この快適性が信じられないくらい、しっかりとした足取りでコーナリングしてくれる。とりわけ、コーナリング中のロールを確実に抑えてくれるため、不安感が少なく、ステアリングレスポンスも良好。ハンドリングは正確で、狙いどおりのラインを容易にトレースできる点も高く評価できる。
2リッターガソリン(204ps)とモーター(95kW)を組み合わせたパワートレーンについては、急な上り坂から高速道路まで、いっさい不満を覚えなかった。エンジン音は全般的に抑えぎみながら、アクセルペダルを深く踏み込むと抜けのいいサウンドを響かせてくれる点はうれしい。パフォーマンス、官能性ともに、4気筒だからといって悲観的になる必要は決してない。
200と220dには国際試乗会の際にテストしたが、どちらもMHEVシステムがエンジンを的確にサポートしてくれて、必要にして十分な性能が得られた。なかでもE220dは、ハイブリッド・システムがスムーズなエンジン始動を可能にしているほか、ディーゼルならではの力強さが感じられて実に魅力的。一方のE200はガソリン・エンジンならではの滑らかさと静粛性が印象的だった。
新型Eクラスは、パワートレーンが電動化されたことにより、発進のマナーなどが電気自動車に近づいたことは間違いない。また、先進的なインフォテインメント系も電気自動車を強く連想させる。その意味でいえば「エンジン車と電気自動車の架け橋」という役割を見事に果たしている仕上がりだった。
グレード=E350eスポーツEdition Star
価格=9SATC 988万円
全長×全幅×全高=4960×1880×1485mm
ホイールベース=2960mm
トレッド=フロント:1625/リア:1605mm
車重=2170(スライディングルーフ装着車は2210)kg
エンジン=1997㏄直4DOHC16Vターボ(プレミアム仕様)
最高出力=150kW(204ps)/6100rpm
最大トルク=320Nm/2000〜6800rpm
モーター最高出力=95kW/2100〜4000rpm
モーター最大トルク=440Nm/0〜2100rpm
駆動用電動機・定格出力 kW=47
駆動用バッテリー=リチウムイオン
WLTCモードEV走行換算距離=112km(充電電力使用時走行距離は97km)
WLTCモードハイブリッド燃費=12.7km/リッター(燃料タンク容量50リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路:9.3/12.9/14.9km/リッター)
サスペンション=フロント:4リンク/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=フロント:245/40R20/リア:275/35R20+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=5名
最小回転半径=5.4m