【20世紀名車】鋭利なガンディーニ・デザイン。名匠の技を感じる’80マセラティ・カムシンの華麗なる世界

1980年式マセラティ・カムシン。カムシンは1972年のトリノ・ショーでデザイン発表され、翌1973年のパリ・ショーでデビュー。1974年から生産されたマセラティのフラッグシップクーペ。取材車は最後期モデル

1980年式マセラティ・カムシン。カムシンは1972年のトリノ・ショーでデザイン発表され、翌1973年のパリ・ショーでデビュー。1974年から生産されたマセラティのフラッグシップクーペ。取材車は最後期モデル

GT性能を磨いたV8スーパースポーツ

 先ごろ、天に召された名匠マルチェロ・ガンディーニの鮮烈なデザインをまとったイタリアンV8スーパースポーツ、それがマセラティ・カムシンである。カムシンとはエジプトの砂漠地帯で吹き荒れる熱風=砂嵐を意味する。

 ガンディーニは、ランボルギーニ・ミウラやカウンタックをはじめ、ランチア・ストラトス、フェラーリ・ディーノ308GT4などを手がけた。ユーザーの心を熱くする造形センスの持ち主として知られている。
 カムシンはノーズからリアエンドまで一直線に伸びるウエッジラインが視線を釘付けにする。とにかく美しく、躍動的だ。ガンディーニ作品としてはシンプルな印象だが、ボンネット上の左右非対称ルーバーや、ガラスパネルで仕上げたリアエンドなど、彼の持ち味が存分に盛り込まれている。ヘッドライトはリトラクタブル式だ。

リア

 カムシンは1972年のトリノ・ショーのベルトーネ・ブースでデザインを発表。翌1973年のパリ・ショーで正式デビューした。すでに登場から50年以上の時間が経過しているが、デザインはまったく古びていない。類まれな造形美を誇るイタリアンスポーツである。

 1970年代は、スーパースポーツが一挙にミッドシップ化した時代である。ところがカムシンは伝統的なFRレイアウトだった。スーパースポーツとはいえ、日常性能を重視していたからだ。ハンドリング面ではミッドシップが有利だが、トータルでの実用性やキャビンの快適性はFRに分があった。マセラティはGTキャラクターの追求が伝統である。FRの採用は当然といえた。

室内

エンジン

 エンジンはレーシングカー直系の4930cc・V8DOHC。欧州仕様は320ps/49kgm、排出ガス対策が施された取材車は280ps/48.6kgmのスペックだった。各部コンディションは新車同様。当時のメーカー公表値は0→60mph加速7.6秒、トップスピード275km/hの実力が実感できる凄みにあふれていた。

 エンジン以上に印象的なのはモダンな操縦フィール。カムシンが設計された当時、マセラティはシトロエン傘下だった。それだけにステアリングやブレーキなど広範囲にシトロエン流の油圧システムが採用されている。パワーセンタリング機構付きのステアリングや、独特のペダルタッチを持つブレーキは進歩的だ。
 日本に正規輸入されたカムシンは、20台ほどといわれる。真紅の本革内装が印象的な取材車はその中でも極上の1台である。

1980年マセラティ・カムシン主要諸元

エンブレム

モデル=1980年式/カムシン
全長×全幅×全高=4430×1800×1200mm
ホイールベース=2271mm
車重=1110kg
エンジン=4930cc・V8 DOHC
エンジン最高出力=280ps
エンジン最大トルク=48.8kgm
トランスミッション=5速MT/3速AT
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:トレーリングアーム
タイヤ&ホイール=215/70R15+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=2名

真正面

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