1977年に発表されたポルシェ928は、1975年に登場した924とともに、ポルシェが創業時から継承してきた空冷リアエンジン方式を水冷フロントエンジンに改めたFRモデルだった。928は1995年まで生産された。
水冷エンジンとFRレイアウトを選択した理由は、空冷エンジンでは厳しい環境基準をクリアすることが困難(結果的に空冷でも大丈夫だったのだが)という事情に加え、リアエンジンが操縦性や多用途性で課題を抱えていたからだった。そして、当時は911の販売台数が徐々に低下していた、という背景もあった。
928は実質的に911の後継車として開発された。水冷V型8気筒エンジンや、リアにトランスミッションを置いたトランスアクスル方式、バイザッハ・アクスルと呼ばれたトーコントロール機構内蔵リアサスペンション、空力特性を追求した2+2クーペボディなど、当時のポルシェが、技術の粋を集めて開発したモデルだった。928は1977年に欧州カー・オブ・ザ・イヤーに輝く。現在まで、このアワードを受賞したリアルスポーツは、ほかにない。
取材車の928GTSは、1992年発表の最終型。ポップアップ式ヘッドライトが特徴のボディは、全長×全幅×全高4510×1900×1330mm。5.4リッター・V8DOHC32Vは350ps/50.1kgmを発生する。トランスミッションは4速AT。
久しぶりに対面した928は、やはり魅力たっぷりだった。驚いたのは古くさい印象がまったくないことだ。スタイリングはもちろん、走りもまったく新鮮さを失っていない。むしろ、やっと時代が追いついたのだろうか、新車当時の過剰な印象が影を潜め、その真価を素直に味わえるようになっていた。
V8/350psパワーは、現在でも目を見張る。加速性能は抜群。周囲の流れに乗るには右足にそっと力を込めるだけでいい。アクセルを深く踏み込むと暴力的ともいえる加速が始まり、一気に928はワープする。しかも強烈な速さにもかかわらず、洗練されたフィールはそのままだ。さすがに高級GTスポーツの頂点を極めたクルマである。パワーエリートという表現は、928GTSにこそふさわしい。
最新911のボディサイズが928に近づき、カイエンやパナメーラの存在を考えると、928の目指した方向性は正しかったと感じる。もっと評価されていい名作である。
モデル=1992年式/ポルシェ928GTS
全長×全幅×全高=4510×1900×1330mm
ホイールベース=2500mm
車重=1660kg
エンジン=5396cc・V8DOHC32V
エンジン最高出力=350ps/5700rpm
エンジン最大トルク=50.1kgm/4250rpm
トランスミッション=4速AT
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:セミトレーリングアーム
タイヤ&ホイール=フロント:225/45ZR17/リア:255/40ZR17+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=4名