【クルマの通知表】いま最もマニアックな電動車。マツダMX-30ロータリーEVのパフォーマンスと環境性能

マツダMX-30ロータリーEV/価格:423万5000〜491万7000円(テスト車のインダストリアルクラシックは478万5000円)。MX-30は観音開きのフリースタイルドアを採用したパーソナルクーペ。通常はBEVとして走り、長距離クルーズでも電欠知らずの、いま最もマニアックな電動車。満充電時のEV走行距離は107kmに達し、電池容量が減るとロータリーが自動的に始動する

マツダMX-30ロータリーEV/価格:423万5000〜491万7000円(テスト車のインダストリアルクラシックは478万5000円)。MX-30は観音開きのフリースタイルドアを採用したパーソナルクーペ。通常はBEVとして走り、長距離クルーズでも電欠知らずの、いま最もマニアックな電動車。満充電時のEV走行距離は107kmに達し、電池容量が減るとロータリーが自動的に始動する

ロータリーエンジンが発電用として復活!

 MX-30ロータリーEVが発売された。11年ぶりのロータリーを搭載した市販車の登場に色めき立っているファンは少なくない。RX-7(FD3S)を3台乗り継いだ筆者も、他人事とは思えない気持ちである。とはいえ通知表では、クルマとしての使い勝手と完成度を冷静に確認していく。

 MX-30の販売は現状では芳しくない。航続距離の短さが泣きどころのBEV版だけでなく、MHEVも伸び悩んでいる。ロータリーEVの受注は順調と聞くが、まだ街で頻繁に見かけるようにはなっていない。

 クルマ自体はデザインが個性的なうえに「フリースタイルドア」と呼ぶ観音開きのドアを採用するなど意欲的だ。クーペとして、よく考えられている。だが個性的な分、好き嫌いがはっきりと分かれているようだ。

ドア開け

エンジン

 実用性はなかなかのレベル、だがCX-30など通常の5ドアモデルと比較すると不便だ。ドアだけでなく後席回りは、日常的に乗車することを想定していない作りになっている。後席をよく使う人にとっては選びにくいのは確かだ。

 たとえばリアウィンドウは開かず、面積も小さい。後席には空調の送風口もない。観音開きのドアは単独で開閉できず、フロントを開けてからでないと開閉できない。

 とはいえ、これらは見方を変えると都合がよい面もある。大きな開口スペース持つドア回りは、未就学児くらいの小さな子供をチャイルドシートに座らせやすい。座面の上で着替えさせるなど子供のケアもしやすい。また、勝手にリアドアを開けられて狭い駐車場でヒヤッとするような心配もない。MX-30は子育てファミリーにとってはメリットが多々ある。
 MX-30はテールゲートが電動でないのも弱点だ。クーペスタイルとの両立が難しいとの理由だが、このクラスでは電動が一般的になりつつある。手動式はちょっと寂しい。
 前席回りの居心地は上々。独特の雰囲気もある。マツダがこだわるドライビングポジションや視界は良好だ。収納スペースもこれだけあれば不満はない。

インパネ

シート

 気になる点は意外なところにあった。気温が低く湿度が高い状態では、ウィンドウ、とくに両サイドがやけに曇るのだ。うっかり内気循環にしたかエアコンをOFFにしたかと思ったらそんなことはない。外気導入でエアコンもONになっていたにもかかわらず曇る。風量を上げてもなかなか曇りは取れない。見たところ左右端の送風口から出る風がウィンドウに当たりにくいのも原因になっているようだ。除湿性能を上げるなど何らか対策が必要なポイントだと思う。

優れたパフォーマンスとドライバビリティ。ロータリーサウンドは独特

 話題のロータリーEVの走りは、基本的に完成度が高い。マツダは、「通常はBEVとして使い、週末など遠出するときだけエンジンの出番があることを想定している」と説明している。満充電時のEV走行距離は107kmだ。

 駆動力を生み出すのは最高出力170psのモーターのみ。その味付けはなかなかのレベルだ。瞬発力がありながら、高性能BEVにありがちな唐突に飛び出す感覚を巧みに抑えている。乗りやすく、速さが実感できる。実に心地いい。モーターはBEV仕様と共通だが、重量増に合わせて出力向上が図られている。

タイヤ

充電リッド

 電池残量に余裕ある範囲では、走りはリアルBEV。さて、その先が大いに気になるところ。マツダとしてはBEVとして、できるだけ発電のためのエンジンがかからないようにした。しかもかかったときにはロータリーを深く味わってもらえるよう、アクセル操作と車速、そして音の連携に大いにこだわったという。実際に走っても、確かにそうなっている。

 車速が低い状態や信号待ちなどで停止したときには、チャージモードでもエンジンは停止して静かになり、走り出すとアクセル操作や車速にあわせて適宜エンジンがかかる。ジェネレーターのおかげで再始動はスムーズそのもの。ノーマルモードではバッテリーのSOC(残量比率)が40%になるように制御され、エンジンがかかるとけっこうな勢いでSOCが上がる。

 エンジンが始動しても回転運動のロータリーなので振動はあまり気にならない。だが独特のロータリーサウンドが盛大に聞こえる。ロータリーの音は「味」として興味を持って楽しめた。とはいえ、よい音かどうかというと、微妙だ。同乗していた家族は「なに、この音!?」と驚いていた。
 パフォーマンスは優秀。加速フィールは非常によい。緻密かつ丁寧にチューニングされたことがうかがえる。

室内全体

ラゲッジ

 乗り心地は、重量増に合わせて足回りが強化されたせいか、ややコツコツとする印象がある。MHEVやBEV仕様のしなやかさが際立つセッティングと異なる。だが、この足回りが、素直で正確なハンドリングを実現した要素だ。

 MX-30ロータリーEVは、個性的なMX-30をベースに、ロータリーの復活というニュースまでプラスした唯一無二の存在。往年のロータリー支持層はもちろん、電動車に個性や面白みを求める人にとっても、価値ある1台である。

通知表/マツダMX-30ロータリーEVインダストリアルクラシック 価格/478万5000円

01チャート

総合評価/72点

Final Comment

電動車としてハイレベルな走行フィール
課題はロータリーの音と経済性か

 試乗車にはスタッドレスタイヤが装着されていた。採点は、使い勝手に関する項目で伸びなかった面を、動的性能で補った格好になった。アクセル操作に対する味付けはよくできている。ブレーキフィールは好みが分かれるかもしれない。EV走行距離は、気温が低く渋滞路が多かったせいか、本当に100km超も走れるのか不安に感じた。視界の支援機能はトップビューとフロントビューが複数あり、重宝した。ナビの目的地設定は、慣れても使いにくい。リファインを期待する。

使い勝手

快適性

動力性能

魅力

テストコース

マツダMX-30ロータリーEV主要諸元

エンブレム

グレード=インダストリアルクラシック
価格=478万5000円
全長×全幅×全高=4395×1795×1595mm
ホイールベース=2655mm
トレッド=フロント:1565/リア:1565mm
車重=1780kg
エンジン=830cc水冷1ローター(8C-PH型、レギュラー仕様)
最高出力 =53kW(72ps)/4500rpm
最大トルク=112Nm(11.4kgm)/4500rpm
モーター最高出力=125kW(170ps)/9000rpm
モーター最大トルク=260Nm(26.5kgm)/0〜4481rpm
動力用電池・総電力量=17.8kWh
WLTCモード充電電力使用時走行距離=107km
WLTCモードハイブリッド燃費=15.4km/リッター(燃料タンク容量50リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路:11.1/18.5/16.4km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:トーションビーム
ブレーキ=フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ディスク
タイヤ&ホイール=215/55R18+アルミ
駆動方式=FF
乗車定員=5名
最小回転半径=5.3m
主要装備:スマートブレーキサポート/AT誤発進抑制機能/緊急時車線維持支援/車線逸脱警報/レーンキープアシスト/マツダ・レーザークルーズコントロール/ブラインドスポット・モニタリング/後側方接近車両検知/ドライバーアテンションアラート/バックガイドモニター/360度ビューモニター+前後パーキングセンサー/アダプティブLEDヘッドライト/クルージング&トラフィックサポート/交通標識認識システム/スーパーUVカットガラス+IRカットガラス/8.8インチセンターディスプレイ&コマンダーコントロール/アクティブドライビングディスプレイ/7インチマルチスピードメーター/チルト&テレスコピックステアリング/ヒーター内蔵パドル付き本革巻きステアリング/クロス&合成皮革シート/運転席電動調節機構/前席シートヒーター/AC1500W電源/ボーズサウンドシステム/ドライブセレクション/バッテリー冷却システム/急速&普通充電ポート/V2L&V2H対応
装着op:ナビゲーション用SDカード・アドバンス 5万5920円
ボディカラー:ソウルレッドクリスタルメタリック(2トーン/op11万円)

真横

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