RX-8は、R34スカイラインGT-RやA80トヨタ・スープラなど国産280ps勢が生産中止となって1年足らずの2003年4月に登場。日本のスポーツカーが冬の時代に突入した中で一筋の光明だった。
さまざまな制約の中、RX-8はマツダらしいスポーツカーに仕上げられていた。時代が求める高い効率を達成した自然吸気ロータリーを搭載したうえで、大人4名が無理なく乗れる室内空間と十分なトランク容量を実現。ファーストカーとして楽しめるリアルスポーツという新しい価値を提案した。
観音開き式のフリースタイルドアを採用した容姿は、社内でも賛否両論だったという。少し前までFD3S型RX-7のような傑作のピュアスポーツが存在したのだから無理もない。それでもRX-8は、ロータリーを積むスポーツカーならではの価値を身につけていた。
FD3Sを3台も乗り継いだ筆者は、ロータリーつながりでRX-8現役当時に頻繁に乗る機会があった。9000rpmまで回る「レネシス」と呼ぶ自然吸気のロータリーは、回すほどに魅力が鮮明になった。澄みわたる乾いたロータリーサウンドも心地いい。いつも乗るのが楽しみだった。もっとパワーがほしいという声も聞かれたが、個人的には十分だと感じていた。
上級グレードのMTが5速でなく6速というのも魅力ポイント。一方でATとの相性もよく、とくに6速ATは低回転でのトルクが細いレネシスの泣きどころを巧みに補っていた。
もちろん、ハンドリングは素晴らしかった。軽量コンパクトなロータリーをフロントミッドの奥深くに搭載しただけのことはあった。中でも高いボディ剛性と当時最新の電動パワーステが効いて、ピュアスポーツを謳うFD3Sよりも回頭性は気持ちよかった。3台乗り継いだ筆者がいうのだから間違いない。
とにかくRX-8はロータリーの回転感と回頭感が際立っていた。それでいて4人乗りパッケージングによるロングホイールベースが効いて安定性もハイレベル。低いノーズもロータリーなればこそだった。
2012年6月に生産終了を迎えてはや12年。時間が経過しても不思議と古く感じない。こんなクルマはまさしく世界で唯一無二。ロータリーならではの味わいに満ちたスペシャルモデルを、比較的リーズナブルに乗れるのは、いまがラストチャンスかもしれない。
モデル=2012年式RX-8スピリットR(MT)
新車時価格=6MT 325万円
全長×全幅×全高=4470×1770×1340mm
ホイールベース=2700mm
トレッド=フロント:1505/リア:1510mm
車重=1350kg
エンジン(プレミアム仕様)=654cc×2・直列2ローターターボ
最高出力=173kW(235ps)/8200rpm
最大トルク=216Nm(22.0kgm)/5500rpm
10・15モード燃費=9.4km/リッター(燃料タンク容量65リッター)
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:マルチリンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=225/40R19+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=4名