2007年は、Dセグメント・スポーツセダンにとって歴史的な転換期だった。
メルセデス・ベンツがC63AMGをリリースしたのと前後してBMWはM3を発表。いずれも新たに自然吸気V8エンジンを搭載したことで、発売済みのアウディRS4と併せて、ドイツ・プレミアム御三家が送り出すDセグメント・スポーツセダンのパワーユニットがいずれも横並びの状況となったのだ。
さらにいえば、日本のレクサスから自然吸気V8エンジンを積んだIS Fがデビューしたのも、同じ2007年だった。
なぜ、各社の方針がこうも一致したのか。その理由は、この時期BMWだけでなくメルセデス・ベンツまでもが若い顧客層を狙って「アジリティ」、「ダイナミック」といったキーワードを使い始めるとともに、スポーツモデルのラインアップを強化したからだ。そうした中、まだスポーツモデルにターボエンジンを投入するテクノロジーが整っていなかったこともあり、そのサイズとしては上限というべきV8自然吸気エンジンを積み、果てしないパワー競争を繰り広げたのである。
Dセグメント・スポーツセダンの歴史を振り返ると、リーダー的な存在はやはりBMWである。ライバルよりひとあし早く、E30のボディにF1直系の直4DOHC4バルブ・エンジンを積んだM3を1985年に投入。続くE36では伝家の宝刀ともいうべきストレート6に換装するとともに、2007年デビューのE90には前述のとおりV8エンジンを搭載。先行ブランドとしての矜持を示した。
この時期のBMWはとりわけアジリティの強化に熱心だった。それはE90のM3も例外ではなかった。ステアリングをわずかに切っただけでも強烈なヨーモーメントが立ち上がるレスポンスのよさを誇っていた。それは8300rpmという超高回転で420psを発揮する4リッター・V8エンジンも同じこと。アクセルペダルを踏み込めば文字どおりカミソリのように鋭いスロットルレスポンスを披露した。しかも、全回転域で十分以上のトルクを生み出す柔軟性も兼ね備えていた。
とはいえ、やはり「M」謹製エンジンの魅力が遺憾なく発揮されるのは高回転域。クォーッという迫力ある吸気音を振りまきながらパワーを炸裂させるさまは、ファンならずとも心を奪われる迫力だった。
もっとも、2014年デビューのF80・M3はターボで武装したストレート6に回帰。V8搭載のM3は一代限りで幕を閉じたのである。
モデル=2008年式M3(M・DCT)
新車時価格=7DCT 1020万円
全長×全幅×全高=4585×1815×1435mm
ホイールベース=2760mm
トレッド=フロント:1540/リア:1540mm
車重=1660kg
エンジン(プレミアム仕様)=3999cc・V8DOHC32V
最高出力=309kW(420ps)/8300rpm
最大トルク=400Nm(40.8kgm)/3900rpm
10・15モード燃費=8.0km/リッター(燃料タンク容量60リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:5リンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=フロント:245/40ZR18/リア:265/40R18+アルミ
駆動方式=FR
乗車定員=5名
0→100km/h加速=4.7秒