911という単一モデルに頼った「一本足打法」が生み出す不安定な経営状態からの脱却の狙いも込めて、ポルシェが新たに開発した2シーターMRオープンカーのボクスターをローンチしたのは1996年のこと。初代(986型)は厳密には21世紀名車とはいえないが、2004年(987型)、2012年(981型)/2016年(982型)へと順調に発展。987型からはクーペモデルのケイマンも加え、見事に21世紀名車に成長した。
誕生からすでに四半世紀以上が経過したボクスター&ケイマンは、現在に続く数々の新世代ポルシェの先駆けとなり、同時に911を従来以上のハイエンド・スポーツに押し上げることにも貢献している。
そんなボクスター/ケイマンは、まさにいま、最大の転機を迎えようとしている。誕生以来シート背後に搭載されて来た水平対向エンジンに別れを告げ、ピュアBEVへの大転換を果たす方針が確実だからだ。現在販売されているボクスターとケイマンは、すなわちエンジンを搭載する最後のボクスターとケイマンになる。
もちろん、BEVになったとしてもポルシェの作品である。「オープンとクーペボディを備えた2シーターのスポーツカー」という存在に変わりはないだろう。けれども、BEVへの転換は水平対向という「特殊」なエンジンの採用はもちろん、そうしたユニットをシート背後に搭載するスポーツカー特有の「ミッドシップ」レイアウトを謳えなくなる将来を意味している。
要は、ボクスターやケイマンのようなハードウエアの特徴が明確なスポーツカーは、間もなく新車で購入できなくなってしまうということ。今後、ボクスター/ケイマンという車名は残ったとしても、少なくともメカニズム上では歴代モデルと関連性を持たないクルマへと生まれ変わることが運命づけられているのである。
「リアルミッドシップ」のボクスター/ケイマンのニューモデルを手に入れるなら、まさに現在が最後のチャンス! 新車ではなくても豊富なバリエーションのユーズドモデルをチョイスできるのも、大いに魅力的だ。
水平対向エンジンとMRレイアウト。この2つをボクスター/ケイマンの大きな魅力と受け取るのであれば、現在新車として販売中のモデルはもちろん、初代デビュー当初からのモデルすべてに「いま買っておきたい」という表現が該当する。けれども、さらにそこに最近のエンジンの中にあって「絶滅危惧種」ともいえる大排気量かつマルチシリンダーという記号を当てはめると、そこでの筆頭候補は4リッターユニットを搭載した最新のGTS、そして、3.2&3.4リッターを積む歴代Sグレード、そして熟成の2.7リッター搭載車だろう。いずれも珠玉の水平対向6気筒搭載モデルである。
そして「色もの」として、911のGT3系から移植を受けた準レーシングエンジンと呼べるユニットを搭載したモデルも存在するが、それはボクスター/ケイマンの歴史の中であまりに特殊な例。そもそものボクスター/ケイマンが狙った「普段乗りができるMRスポーツカー」という個性に照らせば、最低地上高やボディの各障害角(アプローチアングルなど)を含め、前出のGTS4.0程度までが本流だ。
ポルシェのラインアップの中にあって、合成燃料を開発してでも「可能な限り遅いタイミングまで、エンジンを搭載し続ける」と表明している911シリーズに対して、別の道を歩むことが選択されたスポーツカー、それがボクスター/ケイマンである。だからこそ、繰り返しになるが、これまで刻まれて来た歴史に共感を覚えるファンは、いまが最後の買いどき。その走りはポルシェらしく、最高のMRスポーツといえる。走りの快感と所有する喜びは、他に並ぶものがない。
モデル=2012年式ボクスターS(MT)
新車時価格=6MT 727万円
全長×全幅×全高=4374×1801×1281mm
ホイールベース=2475mm
トレッド=フロント:1526/リア:1540mm
車重=1360kg
エンジン=3436cc水平対向6DOHC24V(プレミアム仕様)
最高出力=232kW(315ps)/6700rpm
最大トルク=360Nm(36.7kgm)/4500~5800rpm
JC08モード燃費=11.4km/リッター(燃料タンク容量64リッター)
サスペンション=前後ストラット
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=フロント:235/40ZR19/リア:265/40ZR19+アルミ
駆動方式=MR
乗車定員=2名
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