内燃機関からEVへの移行はモデルだけでなく、カーメーカーさえも再編してしまうこととなった。その渦中にいたのはアルピナ。独立系カーメーカーとして長年自社製品をマーケットに送り込んできたブランドだ。BMWベースの車両を専門に開発してきたため日本ではチューナーと思われる節もあるが、そうではない。独自の技術でオリジナリティの高いクルマづくりを続けている。
その証拠にアルピナの車両には、自分たちのエンブレムの他にBMWのマークも付いている。考えてみてほしい。これは異例中の異例である。通常、BMWは自分のブランド名を他の自動車メーカーのクルマに付けることを許さない。勝手にダブルネームにして販売すれば、それこそ訴訟問題となる。が、現実にはアルピナとBMWはダブルネームで販売されている。つまり、BMWもアルピナを高く評価しリスペクトしているのである。
が、それも終焉。冒頭に記したようなマーケット環境の変化で、アルピナの商標権はBMWへ譲渡された。2026年以降、アルピナはBMWの一員となる。アルピナは、独自でのEV生産の道を諦めたのである。長年内燃機関で培ってきた技術を電動化に転化するのは小規模メーカーでは不可能と考えたようだ。
そんな流れを考えると、現存するアルピナ・ブランドの内燃機関モデルは希少であり貴重。ブランドが譲渡される前のオリジナル・アルピナ車の価値は格別だ。ガソリン、ディーゼルを問わず、リムジン、ツーリング、クーペ、SUV、そのすべてが博物館級だ。中でも、長年このブランドの屋台骨として広く愛されてきたB3リムジンには拍手を送りたい。30年前からアルピナを取材、試乗しているが、B3リムジンの進化とアルピナの発展はイコールに感じられる。ちなみに、アルピナではセダンのことをリムジンと呼ぶ。
では具体的にどこに価値があるか。端的にいうとエンジンとシャシーである。BMWが供給するスタンダードエンジンよりパワフルでありながら、吹き上がりはさらに滑らか。しかも気持ちがいい。フットワークも最高である。足回りは引き締まっていながら、乗り心地はつねにマイルド。上品さが伴う。ステアリングのフィーリングを含めアルピナ独自の世界が体中に伝わるのだ。これこそオンリーワン。内燃機関が主役の座を去るのと共にブランドを譲渡したアルピナ。その長年培ってきた実力とこだわりが、しっかりと注入されている。
モデル=2021年式B3オールラッド・リムジン
新車時価格=8SAT 1229万円(2024年モデルは1430万円)
全長×全幅×全高=4720×1825×1445mm
ホイールベース=2850mm
トレッド=フロント:1575/リア:1570mm
車重=1840kg
エンジン=2993cc直6DOHC24Vターボ(プレミアム仕様)
最高出力=340kW(482ps)/5500~7000rpm
最大トルク=700Nm(71.4kgm)/2500~4500rpm
WLTCモード燃費=9.4km/リッター(燃料タンク容量59リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:5リンク
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=フロント:255/35ZR19/リア:265/35ZR19+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名