「ないものをつくれ」というキャッチフレーズ。覚えていらっしゃいますでしょうか?
2009年に開催された東京モーターショーで大きく掲げられていた、ホンダ・ブースのテーマです。
ホンダの初めての製品は、自転車に装着する補助エンジンだったそう。 自転車という乗り物に動力機を付けることで、人の負担を減らし、かつてない実用性と走りの歓びをもたらした。「ないものをつくれ」という精神は、実は、ホンダの始まりの瞬間から流れ続けているものだったんですよね。
ないものをつくるには、まずアイデア。 自由で、大胆で、独創的な発想が大切です。そして重要なのはそのアイデアをカタチにする力。夢を夢では終わらせず、きちんと製品にして世に送り出すこと。そのための情熱と執念と技術力こそ、ホンダの「ないものづくり」という説明を併せて拝見したのですが、それが15年を経た現在でもしっかり覚えているほど、ズキューンと胸に刺さってしまいました。私の頭の中にあるホンダのイメージと、ドンピシャ! にハマッたのだと思います。
そして、その2年後の東京モーターショーに「New NEXT NIPPON NORIMONO」というキャッチフレーズで登場したモデルが初代N-BOXだったんです。
それまで、ホンダのKカーには、スーパーハイトワゴンというカテゴリーのクルマがありませんでした。ライバルのダイハツにはタントが、スズキにはパレット(現在のスペーシア)があったのですが、ホンダの背高モデルは、ポケバスと呼ばれた商用車派生のバモスのみ。乗用車タイプでスライドドアのスーパーハイトワゴン分野は未参入でした。
それがいきなり! N360から続く「N」を掲げて登場。Nはもともと「NORIMONO」が由来なんだそうですが、その大切なNを使い、さらに「New」と「NEXT」と「NIPPON」のアレンジを加えて、ドカン!とデビューしたわけです。衝撃でしたね。
確かに、Kカーは日本独自の規格なので「NIPPON」はピッタリ。ホンダ初のスーパーハイトワゴンなので「New」もOK。そして、その後の大ヒットを見れば、次の時代を作るという意味の「NEXT」は、本当に先を見越していたかのようにハマッたといっていいですよね。お見事です!
ライバルブランドの皆さんが「価格も結構高いのに、なんであんなに売れるんだろう?!」と、指をくわえて眺めてしまうほどヒットした理由は、意外とベーシックなところにあったような気がします。歴代N-BOXの特徴は、とにかく四角いこと。重箱の隅をさらに楊枝で突いて整えたような四角さと表現したら、さすがに言い過ぎかもしれませんが、初代なんてとにかく四角いクルマでした。
基本的にKカーのスーパーハイトワゴンは、ミニバン並みに背が高いのに、全幅は軽自動車規格の制約があるので、全体的にパッと見たときの安定感を出すためなのでしょうか、あえて上方向の四隅を強調していないデザインが多いように思います。そこに抗うように、あえて四角さを強調しつつ、でも安定感も表現するというデザインにまとめ上げたのが個性でした。
そこにはライバル社とは違い、ミニバンをたくさん作り続けてきたホンダならではのノウハウが生きていたのでしょう。N-BOXは、そうして生まれた四角く広いスペースを、センタータンクレイアウトによって、さらに便利に仕上げたクルマです。
一般的に燃料タンクはリアシートの下に配置されています。だからリアシートの位置はある程度決まってしまうんですよね。ところがN-BOXは、床下に薄く燃料タンクが置かれています。これでリアシートの位置が自由に設定しやすくなったんです。さらに、他メーカーにはない、後席座面のチップアップというアレンジ方法を盛り込んでアピール。新鮮でしたね。
ところが、初代N-BOXはこの後席がスライドしなかったため、使いにくいという声が多かったのも事実。とくに運転席とチャイルドシートの位置を近づけたい、ママユーザーが難色を示したという話が聞こえてきたのを覚えています。
現行モデルは、スライドに加えて座面のチップアップができるようになっていますので、それも解決。幅広いライフステージで使いやすくなりました。
一方で運転席のスーパーロングスライドは設定がなくなったり、遊びゴコロを感じるN-BOX/などの派生車種は姿を消しています。これはN-BOXに、何が求められているかを考えた結果なのでしょう。その証拠に、より道具感の強いN-VANのハイルーフタイプをリリースしています。つねにリサーチを怠らず、継続的に進化を続けている点も、N-BOXがいつまでも色あせない理由でしょう。
数あるスーパーハイトワゴンの中でN-BOXにしかできないことがある、「ないものをつくる」ホンダの力がこの1台に詰まっています。