2040年までにBEVとFCEVの販売比率をグローバルで100%にする――つまり、将来的にエンジン全廃を目指すと表明した2021年4月のホンダの発表に衝撃を受けた人は少なくない。
ホンダは、創業当初の自転車用補助エンジンに始まり、後に超低公害ユニットや高出力エンジンなど数々の名機を送り出し、世界で評価を高めてきた。それだけに、エンジンに自ら終止符を打つのは難しい選択だったに違いない。しかし、これまでの歴史を振り返ると、あえて困難な課題に取り組みそれを乗り越えることで強さを増してきたのがホンダ流。「寝耳に水」の脱エンジン化も実はホンダらしいのではないか!?と、冷静に考えれば思えてくる。
ホンダの現時点での集大成エンジンと受け取れるのが、最新シビック・タイプRに搭載するK20C型2リッター直4DOHC16Vターボだ。
最高出力330ps/6500rpm、最大トルク420Nm/2600〜4000rpmは、いまや必ずしも特筆すべき数値とはいえない。
けれども現在のホンダは、前2輪駆動でフロントヘビーなクルマに、ピークパワーばかりを追求した心臓を搭載することの無意味さを理解している。K20C型は、FFリアルスポーツという基本構成を軸に構築された最善のパワーユニットである。この心臓があるからこそ、現行シビック・タイプRは、歴代モデルきってのグレートバランスを手に入れた。
サーキットに持ち込むと回転の上昇に伴う伸び感はスポーツエンジンらしくゴキゲン、もちろん絶対的パワーも文句なしだ。とはいえ開発陣は「自然吸気時代からの継続性も考え、シビックのタイプR用としてはあえてピーク値は追わなかった」と説明する。比較的穏やかな出力特性に調整した結果、ステアリングに妙な反力やトルクステア感を伝えないことに貢献している。このエンジンは、タイプRの心臓として最適なチューニングだ。乗れば乗るほど、そう実感した。
アイドリング+αというゾーンでクラッチミートしてもストールする気配が皆無なのも魅力だ。低回転域でのフレキシブルさは十二分。街乗りシーンであっても「エンジンのホンダ」の面目躍如たる仕上がりを実感できる。
珠玉のユニットを携えつつの「脱エンジン宣言」だからこそ、ホンダの「次の一手」に期待が高まる。赤バッジのタイプRの魅力と価値は絶大。将来が実に楽しみだ。