マラネッロには「クラシケ」と呼ばれる旧車部門が存在する。歴史的アーカイブの管理を筆頭に、生産後20年以上が経過したレーシングカーを含む全フェラーリの認証サービス、そしてクラシックパーツやレストレーションが主な業務だ。「コルソ・ピロタ・クラシケ」と呼ばれるドライビングプログラムもクラシケ部門が担当する。
通常のドライビングレッスンと違う点はズバリ、クラシック・フェラーリを使う点。使用するのは彼らが入念に整備した名馬たち。308GTB&GTSのキャブ仕様やモンディアル3.2、550マラネッロ、365GTB4デイトナといった憧れのクラシック・フェラーリが揃う。しかも舞台はフィオラノ・テストトラックである。
そもそもフィオラノの敷地内に立ち入ること自体が貴重だ。エンツォ時代からある歴史的な建造物を使って、ドライビングの座学からプログラムがスタート。念入りだったのは連続するコーナーのライン取りや3ペダルミッションの扱い方。左足ブレーキはおろか「ヒール・アンド・トゥ」さえ推奨されない。ブレーキはまず右足で。十分に減速してから次の動作に移れという。
座学の後、その昔エンツォがF1のテストを見守ったピットへ移動、実技に入る。この日はウエットコンディション。インストラクターによる308GTBのデモ走行を助手席で体験後、運転席へ移った。
クラッチペダルはさほど重くない。とはいえ昨今めっきり使わなくなった左足にはまずまず負担に感じる。そのうえキャブ車である。アクセルをガバッと開けても上手く走るわけはない。クラッチをゆっくりとつないでから、じわじわっとスロットルを開け、クルマのご機嫌を伺いつつ走り出した。
野太くたなびく排気音もさることながら、空気を盛大に吸い込む音、それに続く背後のメカニカルノイズがなんとも心地いい。濡れた路面ゆえ油断すると立ち上がりで尻が大いに乱れるが、そういったことも含め、クルマとの絶え間ないコミュニケーションが実に愉快だ。現代のクルマが失ったフィーリングの一つである。
モンディアル、550マラネロを経て、締めくくりは、365GTB4デイトナだ。インストラクター曰く、一日頑張ったご褒美的なドライブ、というわけで、クラシケ部門にももう余分な在庫はないというギアボックスを丁寧に操作し、キャブレターV12をじっくり味わってみる。
初期型デイトナ、しかも唸るほど重いペダルに重いハンドルとなれば気軽に楽しめるクルマではない。それでも速度を徐々に上げていくうち、なんだかエンツォが生きていた時代にタイムスリップした気分になった。フェラーリは最新もクラシックも素晴らしい。