ロータス・エメヤは2023年9月にニューヨークでデビュー。ハイパーカーのエヴァイア、ハイパーSUVのエレトレに次ぐ電動ロータスである。4ドアのクーペフォルムが印象的な 「ハイパーGT」だ。
国際試乗会はドイツを拠点にオーストリアも走った。中国資本に買収された英国の名門がどうして欧州でと疑問がわく。理由のひとつはADASを筆頭とした最新システムの開発部門がフランクフルトにあること。高出力50kWの急速充電インフラ「IONITY」が存在すること。そして、これが大事だけれど市街地からアウトバーン、山道まで本格GTの出来栄えを試すのに最適な環境が揃っているからだ。
ロータスは、MRのエンジン車、エミーラを最後に電動ブランドとして再出発する。エレトレという電動SUVを先行発売したのは、北米や中国といった巨大市場を意識してのこと。現在は 「ブランド知名度の低い市場」でSUVであることは譲れないポイントである。
一方、昔からの熱心なファンが存在する日本では、その変化はあまりに唐突に映る。これまで軽量ハンドリングマシンのエリーゼをメインに販売してきたディーラーとそれを購入してきたユーザーにとって、高価なフル電動モデルであることはもちろん、そもそもロータスとSUVのイメージがつながらない。
4ドアサルーンにしても同じことである。だが、ロータスにとって、高性能4ドアは、昔からの悲願だった。創業者、コーリン・チャップマンには4ドアのアイデアがあったという。ノーフォークに新工場ができた頃というから1970年代の前半か。メルセデス450SEL6.9に幹部たちを乗せて 「車内会議」をしながら飛ばしていたという。そういう使い方ができるクルマをコーリンは求めていた。
1980年代はじめ、4ドアロータスの夢が天才デザイナー、元ピニンファリーナのパオロ・マルティンに託された。マルティンは代表作にフェラーリ・モデューロやランチア・ベータモンテカルロなどがある。そんなパオロが描いた4ドアロータスが「2000エミネンス」だった。残念ながらこのプロジェクトは経営不振とコーリンの死去によりお蔵入りに。その後1990年代にオペル・ベースの高性能セダン、ロータス・オメガが登場しBMW・M5やメルセデスベンツE500の好敵手となった。だが、それはロータス・オリジナルではなかった。
コーリンが果たせなかった夢を電動ハイパーGTとして実現したクルマ、それがエメヤだ。コーリンの長男クライヴはエメヤに試乗し、「父が生きていたらとても誇りに思っただろう」と語ったと聞く。
メカニズムは基本的にエレトレと共通だが、背の低いプロポーションと独自の機能性を実現するために、バッテリーセルは形状を変えた。さすがは2028年までにフル電動ラグジュアリーブランドを目指すだけのことはある。バッテリーは性能を決定する要素だ。カテゴリーが変わればバッテリーを替える。その手法は正統派と感じる。
グレード構成はエレトレと同じ。スタンダードのエメヤ(450kW/710Nm)、パワースペックは同じで装備を充実させたエメヤS、高性能モーターとアクティブダンピングシステムを備えたエメヤR(675kW/985Nm)の3タイプ。ユーザーの6割がSを選ぶ、とマーケティング担当者は語る。床下の800Vリチウムイオンバッテリーのキャパシティは102kWhで3グレード共通だ。試乗会にはSとRが用意されていた。いずれもイメージカラーのソラーイエローである。
ミュンヘンでは主に速度無制限のアウトバーンを、オーストリアに入ってからはカントリーロードから本格的な山岳路、街乗りまで両グレードで堪能した。その結論、完成度が高くお勧めできると判断したのはSのほうだった。
Rは確かにダッシュが鋭く、加速は驚くほど凄まじい。最高速もきっちり250km/hに達した(メーター読み)。アクティブダンピングによる乗り心地も全モードで素晴らしい。けれどもリアモーターの出力がより高く、トランスミッションが2速という関係もあり、有り余るパワー&トルクの制御は万全でない印象だ。とくに前輪が落ち着かない。目を三角にして走らせたいならスリリングでいいかもしれないが、街乗りと高速道路をメインユースにしたいまなら、絶対にSだ。
エメヤSの走り味はRとは異なる。街中の乗り心地から加速、高速走行時の安定感まで全域で上等。圧巻は230km/hに達するまでのリニアで安心感のあるパフォーマンスだ。スポーツモードを選べば街中の乗り心地も引き締まって心地よい。4基のライダーと18のレーダー、大小12個のカメラによるADASも優秀だった。
350kWh器の急速充電は15分で50kW(200km以上分)も入った! こうした高性能充電器とそれに対応したBEVがほしいよなぁ。