「エンツォ・フェラーリはレース参戦資金を捻出するためにロードカーを作っていた」というのはよく聞く話だ。創業した1947年から1960年代まで、フェラーリが生産したモデルはほぼすべてがレースに出場しており、純粋なロードカーとして誕生した台数はごく一部といって間違いない。
そんなフェラーリだから1950年に創設されたF1グランプリに参戦したのは当然の話。以来、現在にいたるまで「毎シーズン、F1に挑み続けてきた唯一のレーシングチーム」として歴史に名を残している。
しかもフェラーリは、ただ「長年F1に参戦し続けている」だけではない。最も多くの栄冠を勝ち取ったレーシングチームでもある。ワールドタイトルは通算16回獲得、レースでの勝利数は247勝を数える。これに続く存在はマクラーレンとウィリアムズだが、それぞれタイトル獲得は8回と9回、優勝回数は188勝と114勝に留まる(2024年シンガポールGP終了時点)。
ご存じのとおり、フェラーリはF1だけでなく、世界耐久選手権(WEC)にも参戦し、世界中のGT3レースを戦っている。しかし、F1部門だけは別格の扱いを受けており、組織的にもスクーデリア・フェラーリとして強い独立性が確保されている。WECやGTレースを担当しているのはアッティヴィータ・スポルティヴGTで、こちらは、どちらかといえばロードカーの研究開発部門と近い関係にあるようだ。
では、こうしたモータースポーツ活動はフェラーリのロードカー・ビジネスにどのような影響を与えているのだろうか?
ハイパフォーマンスなスーパースポーツカーを作るフェラーリにとって、マーケティング上、モータースポーツでの成功は欠かせない要素といえる。しかも、フェラーリはブランディングとしてモータースポーツを活用しているだけでなく、たとえばステアリング上のスイッチ類やエアロダイナミクスなどにF1と共通の思想や名称を活用。F1のイメージをダイレクトに製品へと反映させている。
つまり、フェラーリはF1にとって欠かせない存在なのだが、実はF1にとってもフェラーリは必要不可欠な存在といえる。なぜなら、フェラーリが参戦しているからこそF1は華やかなイメージを生み出し、スポンサー企業はそこに巨額の資金を投じると考えられるからだ。フェラーリが参戦していなければ、F1はこれほど多くのスポンサー企業を集められなかったに違いない。