ヴェゼルはホンダのコンパクトSUVで、現行型は2021年4月にフルモデルチェンジをした2代目となる。2024年にはマイナーチェンジを実施し、その魅力を一層高めており、2024年上半期SUV新車販売台数では第1位を獲得するなど、高い人気を誇っている。ライバル車がひしめき合うカテゴリーで、ヴェゼルはなぜ好評なのか、最新モデルに試乗して検証してみた。
2024年上半期SUV新車販売台数第1位という、正真正銘ヒットモデルがやってきました。その名はホンダ・ヴェゼル。同社コンパクトカーのフィットをベースにしたクロスオーバーSUVで、2013年に初代が登場。ゴリゴリのアウトドア派ではなく、都会派=アーバンな雰囲気をまとったコンパクトなクロスオーバーSUVとして、人気を博したのはまだ記憶に新しいところだったりします。
その先に世の中“SUVブーム”がやってまいりまして、コンパクトクロスオーバーSUVもたくさんの種類が登場するわけですが、そんな中において2021年4月に発表された2代目は、初代のようなある種の華やかさはやや抑えられ、いわゆるオーソドックスな雰囲気さえ感じられるような正統派として登場しました。
SUVの百花繚乱時代においては、そこがよかったのかもしれません。エクステリアデザインをスッキリとシンプルにまとめることで逆に万人受けするというか、苦手だと思う人が少ないフォルムにまとまったのだと思うのです。
でもそれだけじゃつまらないということで、そこにPLaYというほんの少しの道具感と遊び心を織り交ぜたグレードを取り入れ、「日常に遊び心を盛り込んだ」とか「毎日の通勤だって、ちょっとしたレジャー気分に変えてくれそう」とか、日常生活からかけ離れすぎない、ほんの半歩踏み出したくらいの、アウトドアレジャー気分にさせてくれる感じ、たとえていうならばキャンプではなくピクニックくらいの雰囲気でしょうか。
多くの方が親近感を覚えやすいグレード展開を設え、それとは別に先日の改良でギア感を盛り込んだHuNTというグレードを用意しました。このあたりが絶妙だと思うんですよね。
そして予想どおり、PLaYグレードの人気が高かったのは、アウトドアに振り切ってないから。サバイバル機能に特化するわけではなく、品よく毎日の生活を彩ってくれるインテリアで設えることができる、それくらいが実にちょうどイイと思う方が多いという証でもあります。
キャンプよりは、ややグランピングな雰囲気なので、当初はFF車のみの設定だったのも理解できます。全車がe:HEV(イーエイチイーブイ)モデルを主力として押し出しているのもヴェゼルの魅力。
このe:HEVという2モーターハイブリッドシステムは、とてもホンダらしいと思うんですよね。充電池の電力を使い走行モーターのみで走るEV走行モード、エンジンを使って発電用モーターで発電しながら走行モーターで走るハイブリッドモード。そして、クラッチを繋ぐことでエンジンと車輪を直結し、ガソリンエンジンの動力だけで走るエンジンモードという3モードを持っているのが最大の特徴です。
エンジンとモーターの力を混合して走ることはできませんが、高速域ではより効率のいいガソリンエンジンと直結するモードで、ダイレクト感のある走りができるのが大きな魅力なんですよね。
悪い言い方をすれば、あまりハイブリッド(電動)車っぽくないのですが、そこが逆に扱いやすいともいえるわけです。やはり「ホンダといえばエンジン!」と思っていらっしゃる方はまだまだ多いと思いますので、エンジンだけでも力強く爽快に走れるホンダらしいハイブリッドシステムが主流ラインアップというのは、ヴェゼルの魅力に大きく貢献しているような気がします。
もちろん回生力を変化させたりなどという、ハイブリッド車らしい魅力もきちんと併せ持っているので、さまざまなエネルギーマネジメントを楽しめる1台というのが正解かもしれませんね。
さて、そんなヴェゼルの魅力がより際立ったのは、その後兄弟車としてWR-Vがデビューしたおかげもあるといえそうです。同じくフィットをベースとした兄弟車ではあるのですが、ラインアップはガソリンエンジン専用で、設えももっとカジュアルというか、ワイルドに仕上げられたWR-Vの出現のおかげで、ヴェゼルのアーバンとアウトドアシーンのイイトコ取りな性格が際立ったと思うんですよね。ユーザーとしても、より選びやすくなったといえばいいでしょうか。
どちらかといえば荷室の魅力がメインのWR-Vに対し、ヴェゼルは後部座席の空間の確保や座った時のくつろぎや落ち着き感にも配慮がなされているのがわかります。いちばんは広さなのは間違いないのですが、センターアームレストをしっかりと装備し、後席用のUSBチャージャーや、タッチセンサー式のLED照明も用意されていたりと、このクラスの中ではちゃんとおもてなし感があるんですよね。オプションのガラスルーフなんて装着したら開放感満点です。
なおかつシートアレンジにも長けていて、座面チップアップができるので、荷室よりもさらに大きな室内高が確保できます。背の高い荷物もドンと来いです。逆に荷室続きのフラットスペースにたたむこともできるので、シーンに合わせて自由自在。この包容力の大きさも高ポイントになっていると思います。
つまり、ヴェゼルのヒットの真相は、1台でなんでも賄えるフレキシブルなオールマイティ性の高さなのでしょう。
1)日常生活からかけ離れすぎない、ピクニック感覚で親しみやすい。また、多くの方が親近感を覚えやすいグレードを展開
2)メインパワートレーンのe:HEVはホンダ独自のハイブリッドシステムで、モーターとエンジンのいいところを賢く生かして走行
3)後席はゆったりとくつろげる広さを確保。1台で何でも対応できるフレキシブルなオールマイティ性の高さがウリで親しみやすい
たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。