【羨望のSUV】本物であることで選ばれ続けてきた象徴的な存在「メルセデス・ベンツGクラス」の私的考察 by 九島辰也

Gクラス、通称ゲレンデヴァーゲンは1979年にデビュー。NATO軍の制式車両という側面も持っていたため、その作りは徹底的にヘビーデューティー。「ウニモグ」の経験を活かした堅牢なフレームの持ち主と紹介された。そのGクラスは2018年の改良タイミングでフルモデルチェンジに相当する大幅改良を実施。卓越したオフロード性能はそのままに、快適性/走行安定性を大幅アップ

Gクラス、通称ゲレンデヴァーゲンは1979年にデビュー。NATO軍の制式車両という側面も持っていたため、その作りは徹底的にヘビーデューティー。「ウニモグ」の経験を活かした堅牢なフレームの持ち主と紹介された。そのGクラスは2018年の改良タイミングでフルモデルチェンジに相当する大幅改良を実施。卓越したオフロード性能はそのままに、快適性/走行安定性を大幅アップ

アメリカでのGクラス販売が、現在の人気に繋がった!? 自身でもG500を楽しんだ

   メルセデス・ベンツGクラス、通称ゲレンデヴァーゲンなんて呼ばれるクルマがある。海外ではG(ジー)ヴァーゲンという人も多い。息の長いモデルで、1979年から存在する。しかも、40年以上経っても人気抜群。新車価格は上がるし、中古車相場も高値維持が続いている。

 そんなゲレンデもかつては生産終了の道をたどっていた。1997年に1998年モデルとしてメルセデス・ベンツMクラス(現在のMLクラス)がリリースされると、それをゲレンデとスイッチすることを彼らはNATO軍に提案した。そう、ゲレンデのメインマーケットは軍用車。SUVマーケットなんてまだない時代、市販車は一部の変わり者だけにウケていた。

 ところが、当時NATO軍はそれを拒否、ゲレンデの生産継続を希望した。戦地を想定したとき、Mクラスでは戦いきれないと彼らは判断したのである。貧乏くじを引いたのはMクラス。軍用車を想定してラダーフレームで設計したのだが、これが市販車としては大不評。世界中のモータージャーナリストから走行性能にダメ出しされた。乗り心地は事実トラック然としていた。

クラシックG

オリジナルG

スケッチ

 ラダーフレーム採用の理由はトーイングだ。牽引能力を優先すれば自然とその選択になる。ちなみに、その翌年に1999年型として登場したBMW・X5は大好評。モノコックボディで設計されたことで高いハンドリング性能とMクラスより快適な乗り心地を手に入れたからだ。ちなみに、世界初のモノコックボディSUVはレクサスRX(初代ハリアー)。このクルマがアメリカを発祥とする世界的なSUVブームを牽引した。

 MクラスがNATO軍にダメ出しされたことで、メルセデスはゲレンデの生産継続を決める。と同時に、アメリカでの正規販売を開始した。日本にいるとわからないが、ゲレンデが北米で正規販売を開始したのは99年から2000年くらい。それまではマニアが並行輸入で入れていて、それがにわかに人気になり始めていた。それを知ったのは、2001年にロサンゼルスにある『トラックトレンド』編集部に表敬訪問に訪れたから。当時、自分は『アメリカンSUV』という雑誌の編集長をしていた。エスカレードやハマーH2、タホ、サバーバン、ダッジ・ラムなどの取材のため、よくアメリカの地を踏んでいた。

 そんなある日、『モータートレンド』の姉妹誌『トラックトレンド』の編集部に行って、アメリカンSUVを取材しようとすると、対応してくれた副編集長がしきりにゲレンデの話をしてくる。ゲレンデが正規輸入されていま大ブームが起きているというのだ。こちらの目的はビッグ3のSUV取材だっただけに拍子抜けした。確かに、「軍オタ」の多いアメリカ人が好きそうなポイントをGクラスはたくさん備えているのは間違いない。

気球

カブリオレ

 さて個人的にゲレンデとどう向き合ってきたか。そもそも大学生の頃から「四駆」好きということもあり、ゲレンデはいつか所有したいと思っていた。大学生の頃はまさにバブル景気絶好調だった。とはいえゲレンデに注目する人は少なかった。四駆の世界では一目置かれていたが、リアルに所有していた人は少なかったと思う。大学4年生の頃、雑誌『4X4マガジン』で編集のアルバイトをしていた。紹介するモデルはランクルやサファリ、パジェロ、ハイラックス・サーフがメインで、たまにシボレーあたりを取り上げていた。

 そこから20年近く経った2008年ごろ、初めてゲレンデを自分で所有した。すでにモータージャーナリストとして活動していたタイミングだ。年式は2002年型。グレードは5リッター・V8エンジンを搭載したG500だった。色はブリリアントシルバー。当時993型911タルガも持っていたが、それもポーラシルバーだったため、なんかシルバー好きに思われそうな感じだった。みんな中古車だからね。偶然でしかないけど。

 きっかけは自動車販売会社を営む友人から「九島さんが好きそうなクルマが下取りに入りましたよ。見に来ませんか?」という電話。でもって、翌日すぐに向かって値段交渉した。交渉成立までに時間はかからなかった。たぶん2週間くらいで乗り出していたと思う。

 そしてスタートしたゲレンデライフ。試乗会、ゴルフ場、取材などの足とした。993は走行距離を伸ばしたくないから、どうしてもこちらがヘビロテされる。走りはみなさんご存じのテイスト。重量の大きな塊を大排気量エンジンでグイグイ引っ張る。ステアリングフィールはまさにメルセデス。このあたりの味付けはさすがだ。乗り心地もそれほど悪くない。昔このクルマのリアサスは高速道路で跳ねると酷評していたモータージャーナリストがいたが、そういうモノじゃない。このクルマを選ぶ人にそこを期待する人はいない。少なくとも当時は。

セレブ

AMG

 なんて感じで楽しんでいたが、あるとき気づいた。「このクルマはものすごく燃費が悪い!」と。なんたってガソリンタンクは100リッターほど入る。いまだったら万札2枚。当時はそこまでではないが、お財布に厳しかったのはいわずもがなだ。東京と御殿場間を2往復すると空になる。「う〜ん、最近ガススタにいる時間が長いなぁ」。

 そんな中、リーマン・ショックが日本にまで波及。仕事が減り、暇な時間が増えた。結果ゲレンデを手放すことになる。フリーランスは辛い。リーマンがなければゲレンデライフはもっと続いたのに。

 この話がどこに繋がるかというと、ディーゼルエンジンの登場に続く。2013年にリリースされたG350 BlueTECである。当時のことを語ったムービーが動画サイトにいまも公開されている。興味のある方はどうぞ。31万再生されていて、とあるパーティで「僕は君のことを知っているよ」と、ゲレンデユーザーだという大きな会社の社長に声をかけてもらったことがある。ゲレンデ・ファンは幅広い。

Gクラスは四駆として「本物」、スペックだけでなく鍛え上げられた機能を持つ

 それでは、ここでワタクシがゲレンデを好きな理由をお知らせしよう。それはこいつが「本物」だから。本物の定義はいろいろあるだろうが、個人的な見解ではフロントのデフロック機能がキモとなる。つまり、センターデフロックは当たり前、リアもそうだろう。でもフロントをロックできてこそ四駆機能を搭載していると公言できる気がする。なぜそう思うかはリアルに体験したから。ジープ・ラングラーにルビコンが登場したころ、アメリカで行われた国際試乗会でその経験をした。ぬかるんだ川床をグングン登っていくルビコン。だが、しだいにセンターロックだけでは無理、それではと、リアデフもロックして……、となり、最終的にフロントデフをロックするとウソのようにクルマが「よじ登る」のだ。その走りはもう神業。ものすごく興奮したのを覚えている。

6輪

ボディ

 実際にゲレンデでこうした走りを試したことはない。が、できるのは予想できる。スペックもそうだし、事実NATO軍が使い続けているのもそうだ。初号機をW460型、その後日本でも多く見るモデルをW463型と呼ぶのをみなさんご存じだろうが、その間の空き番はすベて軍用車である。どうです? この事実を知ったら身が引き締まるでしょ!

 なんて感じで徒然なるままにゲレンデについて書いてきたが、まだまだエピソードはある。でもまぁ、そこはまた別の機会に。いずれにせよ、シュタイア・ダイムラープフ社の設計・製造したクルマがいまも走り続けているのだからすごい。初代は1979年。開発のスタートは1975年といっていたから、もしかしたらその背景には1970年にリリースされたレンジローバーも関係しているかも。そんな妄想をしたくなる本物四駆のストーリーは尽きない。

レッド

EQG

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