【最新スーパースポーツ試乗】イタリアの至宝「パガーニ・ウトピア」。その6リッターV12ツインターボの瞬発力と咆哮を堪能!

パガーニ・ウトピア。ウトピアは「創造主」ホレーシオ・パガーニの情熱が結実した世界最高峰のイタリアン・ハイパーカー。リアミッドにメルセデスAMGが、パガーニのためだけに開発・生産する6リッターのV12ツインターボ(864hp/1100Nm)を搭載。各部はCカーに代表される1990年代のスポーツプロトを参考に、最上の技術と素材で仕上げている

パガーニ・ウトピア。ウトピアは「創造主」ホレーシオ・パガーニの情熱が結実した世界最高峰のイタリアン・ハイパーカー。リアミッドにメルセデスAMGが、パガーニのためだけに開発・生産する6リッターのV12ツインターボ(864hp/1100Nm)を搭載。各部はCカーに代表される1990年代のスポーツプロトを参考に、最上の技術と素材で仕上げている

ウトピアはスパルタンとラグジュアリーが融合した王道スポーツカー

 パガーニ・ウトピア。その走りはまさに神がかっていた。最新モデル、しかもハイパーカーとしては異例の3ペダルミッションを備えている。その扱いに気難しさはない。けれども手足を駆使して数億円のハイパーカーを操るという行為そのものに緊張する。

 走り出せば、乗り心地のよさにまず感動した。ウアイラよりはっきりとコンフォートだ。それでいて車体がさらに引き締まっているように感じる。人馬一体感も大いに増していた。
 オープンロードでスロットルを深く踏み込む。V12エンジンの咆哮が後頭部をつんざき、振動が腰を刺激して、メカニカルノイズが脳のテンションを大いにあげる。鞭を打たれた駿馬のように、その加速レスポンスは瞬発的であった。

走り

 タイトベントではまるで上半身がフロントアクスルと一体となったかのよう。フロントの両輪を両腕で抱え込んで動かしている感覚があって、動きはつねに正確、狙ったラインにタイヤを置きやすい。それはある程度、速度を高めても変わらなかった。
 あっという間に約束のテスト時間を終えると、背中がぐっしょりと濡れていた。空調が効かなかったわけじゃない。興奮と感動の汗だ。最近のスーパーカーでは得難い経験である。

 ホレーシオ・パガーニがランボルギーニを辞し自らのデザイン会社「モデナデザイン」を設立してちょうど30年が経った2022年、自らの名を冠したハイパーカーの第3世代ウトピア(=ユートピア)が発表された。初代ゾンダ、2代目ウアイラが大成功を収め、いまや世界で最も高価で豪華なスーパーカーとして確固たる地位を築いた。

ドア開け

エンジン

 ウトピアの開発コンセプトは、豪華絢爛な内容とは裏腹に、至ってストレートである。「シンプル+ライトウェイト+ドライビングファン」。スーパーカー、否、スポーツカーにとってこれ以上なく明快なコンセプトであり、ほとんどマツダ・ロードスターの世界観のようである。

 そもそもパガーニ製ハイパーカーのコンセプトの源は何か。Cカーに代表される1990年代のスポーツプロトタイプの設計を元ネタにし、ビス1本に至るまで軽量かつ高価な素材を惜しみなく使って、レーシングカー的でスパルタンなマシンでありながら、とびきりラグジュアリーに仕立てた、まさに「走る宝石」、である。

 久しぶりにモデナ近郊にある本社ファクトリーを訪れた。朝9時に到着すると、すでに10人近くの観光客が門の前でたむろしている。ミュージアムとショップのオープンを待っているのだ。歴代モデルをはじめ、ホレーシオが学生時代に製作したフォーミュラーカーや100万km以上に及ぶ走行試験に耐えたモノコックボディのテストカーなど、貴重な展示品を観察できるとあって、クルマ好きの観光客には、マラネッロやサンタガータと並ぶ人気スポットになったようだ。

前イメージ

リア

 テスト車両はミュージアム裏側でわれわれを待っていた。英国グッドウッド・フェスティバルから戻ったばかり。シャンパンゴールドの車体だが、イベント用にマットグリーンのフィルムを大胆に貼ったままで現れた。足元にはスポーツパッケージの象徴であるカーボンリムとパガーニ専用開発のPゼロ・トロフェオRSが奢られている。この仕様で公道を走る世界最初のジャーナリストに選ばれたようだ。

AMG特製V12ツインターボと軽量ボディ。MTは操る楽しさを追求した証

 久々に間近でみたウトピアのスタイルにはホレーシオが愛してやまない1960年代のスポーツプロトタイプレーサーの雰囲気が漂っている。VIPカスタマーにとってホレーシオは「創造主」、つまりは神そのもの。彼の好みの反映こそカスタマーの望むところだろう。

 逆もまた然り。ホレーシオはカスタマーもまた「もうひとりの神」であることをよく知っている。その際たる例がトランスミッションだ。デヘドラルドアを跳ね上げ、ワインレッドのレザーに包まれたシックなインテリアを覗き込むと、屹立するスティックシフトが見えた。3ペダルマニュアルトランスミッションの復活は、ラップタイム競争よりドライビングファンを望む多くのカスタマーからの要望を聞き入れて、開発の途中で急遽加えたものだ。

 キャビンの背後にはメルセデスAMGがパガーニ用に再設計し、いまなお生産する6リッター・V12ツインターボが収まる。最高出力864hp、最大トルク1100Nmという数値そのものは1000psオーバー、なんなら2000psさえ登場する昨今のスーパーカー界においては物足りなく思えるかもしれない。けれども2000psのフルエレクトリック・ハイパーカーとは違って、ウトピアの車重はわずか1280kg。パワーウェイトレシオは約1.5kg/psと、驚異の数値だ。ホレーシオは以前よりスペックだけをいたずらに追求するのではなく、総合的な性能を重視してきた。今回、うれしいことに彼の口から「12気筒エンジンを諦めるつもりはまったくない」という自信たっぷりなフレーズも聴くことができたのだった。

キャビン走り

キャビン

 パガーニ社の生産規模は現在のところ年産最大50台。試乗したウトピア・ベルリネッタの生産台数は99台に限定され、取材当時(7月下旬)には44台目が完成間近だった。一度に8台の生産がオーガナイズされており、すでに40台以上が完成したという。顧客へのデリバリーも始まっている。3ペダルマニュアルのオーダーが半数以上を占めるらしい。また先日開催されたモントレー・カーウィークでは待望のロードスター(限定130台)も発表されている。

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