スイフトは、現在2世代のモデルを販売している。昨年末に新型に移行した標準シリーズと、従来モデルのスイフトスポーツだ。このスポーツは、本来は特別な位置付けだが、販売がスイフト全体の約半分に迫るほど人気が高い。
標準シリーズの全面刷新に伴い、スポーツもそう遠くないうちに新しくなるはずだ。今回はスズキの世界戦略の主軸、標準シリーズに注目した。新型は4気筒ユニットから、高効率の新設計3気筒ユニットに変更。安全支援システムも充実するなど気合いが入ったニューカマーである。軽量高剛性な「ハーテクト」と呼ぶプラットフォームは、基本的にキャリーオーバーになる。
スタイリングは、広く愛されるよう無国籍でクラスレスな独特の雰囲気を継承している。従来型は筋肉質デザインとされていたが、販売サイドからは「アグレッシブすぎる」という声が小さくなかったという。新型はスイフトらしさを損なうことなく、優しい印象の容姿に変貌した。
筆者の周囲ではこのスタイリングに馴染めないという声も聞く。だが若い世代からは好評らしい。直近の販売傾向は、もともとボリュームゾーンだった50~60代はそのままに、20代のユーザーがかなり増えているという。
インテリアは個性的だ。スズキ車といえば黒系が多いところ、明るい色を組み合わせ、さらに造形の工夫で新鮮さを演出している。
メーターやステアリングスイッチはシンプルなデザイン。初見でも迷うことがないように工夫されている。機能的に充実しているのも最新モデルならでは。メーター中央のディスプレイには、エネルギーフローやパワーおよびトルク、前後左右のGメーターまで表示させることができる。
車内空間には、いくつか特徴的なところがある。このクラスのコンパクトカーとしてはAピラーやウィンドウが立っていて、ルーフが前後に長いのだ。前席に座るとウィンドウまでの距離が長いので実際以上に広く感じる。また、ルームミラーまでの距離も長めで、視認時にピントが合わせやすい。一方でドアミラー回りはやや死角が気になった。
後席居住性はそれなりかと思いきや、なかなか快適だ。ウィンドウ面積を広く確保した結果、閉塞感が少ない。着座姿勢はアップライトながら、ヒール段差は十分に確保されている。前席下への足入れ性も問題なく、かかと側もどこかに当たって気になることがないよう配慮されていた。
乗降性も優秀だ。フロントはドアが大きく開き、リアも開口部はさほど広くないが、いろいろ工夫されている。ラゲッジスペースも実用的。かつてのスイフトはかなり狭い世代もあったが、これだけあれば不便には感じないだろう。
走りは、エンジンが4気筒から3気筒になったのが大きなポイントだ。3気筒化で最も熱効率のいい環境を作り、安定した燃焼をさせることに注力している。システム的には従来同様のMHEV(マイルドハイブリッド)が主力だ。何ごとも「最小の力で最大の効果を得る」ことを目指しているスズキらしい。
中級車以上が搭載するMHEVは、あくまで内燃エンジン主体で、発進時などに小出力のモーターが加速をアシストするシステムで、それなりに電動感を味わうことができる。トランスミッションはCVTと5速MTが選べ、テスト車のMZは、パドルを駆使してマニュアルシフトもできる。
1.2リッターの3気筒エンジン(82ps/108Nm)とモーターという組み合わせが生むパフォーマンスはなかなか優秀。性能的には十分以上だ。今後追加されるスイフトスポーツは別格の高性能が予想されるが、標準の1.2リッター自然吸気でもアクセルを踏み増したときのトルクの盛り上がり感が楽しい。減速して停止する前からアイドリングストップするのも特徴である。以前はそこで減速Gが変化してギクシャクするイメージがあったが、新型は十分にスムーズになっている。ただし、日常的に使う発進~低速域でやや車速がコントロールしにくい印象もあった。
音については、タイヤの発するノイズが気になるシチュエーションはあるが、ハーシュネス系は比較的抑えられていている。3気筒エンジンの音質も安っぽい感じはしない。
快適性もハイレベルだ。スイフトは従来型からグローバルでは3ナンバー車に成長した。だが日本では、5ナンバー枠に収めるため標準シリーズは、トレッドを狭めている。そのために乗り心地がかなり硬く、むしろスイフトスポーツのほうが乗り心地がいい印象があった。新型はその点がずいぶん改善された。
現行型は、快適性を確保したうえで操縦安定性を高めるといった具合に設計思想が変わったようだ。路面状況によっては跳ねや振動が見受けられるものの、乗り心地は悪くない。
新型は、これまでやや見劣りしていた先進運転支援装備が一気にクラストップレベルに充実した点も歓迎したい。価格はやや上昇したとはいえ、持ち前の良品廉価ぶりにさらに磨きがかかったことは間違いない。
総合評価:70点
Final Comment
軽やかな走りが際立つコンパクトHB
スズキらしいアイデアが冴える高機能が魅力
ベーシックなコンパクトカーの宿命で、どうしても点数が高くならない項目もあるが、全体の完成度は高い。室内空間や荷室は意外なほど広く、使い勝手がいい。走りも魅力的である。小排気量の3気筒エンジン+MHEVとしては十分に力強い加速と、30km/リッターに迫る実走燃費を実現している。乗り心地にはまだ硬さや粗さが散見されるが、従来型に比べるとずいぶん改善された。グローバルモデルとして。世界で通用する水準でしっかりと作り込まれていることを実感した。