ジープ・アベンジャーはブランド初のBEVとして登場した。これまで「4×e」というネーミングでPHEVをレネゲードやラングラーにラインアップしてきたが、それとは違うカテゴリーとなる。しかも、モーターはフロントアクスルにだけ装着されるシングルタイプ、駆動方式はFWDとなる。よって、リアに付くエンブレムは「4×e」ではなく、「e」のみ。「ジープなのにヨンクじゃないの?」と思われる方もいるだろう。だが彼らの歴史を振り返ると、とくに珍しい話ではない。第2次世界大戦後のジープの民生化時では、ウィリスジープをベースにしたRWDのウィリス・ステーションワゴンを製造していた。1940年代から50年代にかけての話である。
アベンジャーの誕生にはステランティス・グループのスケールメリットが関係する。他ブランドのBEV用プラットフォームを借り受けて作られたからだ。最近リリースされたフィアット600eがそれ。使用するプラットフォームは「e-CMP2」と呼ばれる。これは「エレクトリック・コモン・モジュラー・プラットフォーム」を指す。「2」はその第2世代を意味する。第1世代の「e-CMP」は、プジョーe-208/e-2008が使用している。それを鑑みると実績があるぶん、信頼性は高く、運動性能も高いのがわかる。
そのプラットフォームに積まれるパワートレーンはどんなものか。モータースペックは156ps/270Nm 、リチウムイオンバッテリーは54kWhの容量で、一充電航続距離は486kmに達する。充電方法は普通充電と日本向けの急速充電に対応する。もちろん、これはフィアット600eも同じ。バッテリー、インバーター、モーター、ケーブルといったパーツも共有する。ただ、600eの一充電航続距離は493kmとアベンジャーよりほんの少し長い。理由は定かではない。フィアット600eとアベンジャーのローンチエディションを比べると、車両重量は1580kg、ホイールサイズも同じ18インチだ。となると、空気抵抗値の違いなのかもしれない。
アベンジャーには独特の開発プロセスがある。それはテスト走行200万kmの中にオフロード走行が含まれていることだ。ジープ・ブランドしてのお約束だろう。悪路での走破性を目的とした装備が装着されている。床下のバッテリーを保護するアンダーボディのスキットプレートがそれ。たとえFWDであろうともそこはジープとしてのこだわりだろう。
こだわりついでに記しておくと、四駆でなくともアベンジャーには路面状況に応じて各種制御を最適化する「セレクテレイン」が搭載される。トラクションとブレーキ(回生を含む)を統合制御して路面状況に適した走りを提供する機能だ。具体的にはノーマル/エコ/スポーツ/スノー/マッド/サンドといった具合。四駆ではないので限界はあるが、彼らが長年培ってきた叡知がそこにある。
ここまでハードウェアの話をしてきたが、フィアット600eと同じプラットフォームながらアベンジャーにはジープらしいデザインが施されているのもウリ。グランドチェロキーに代表される都会的なジープ顔がこのクルマにも採用された。2022年に発表されたコマンダーに似たクールなデザインだ。ただ、インテリアはもっと工夫がほしいところ。メータークラスターまでフルデジタル化されたのはイマドキだが、少しシンプルで色気がない。何かもう少し個性をアピールしてもよかったと思う。
走りは、プラットフォームから予想されるように完成度の高さを感じさせてくれた。ボディ剛性は高く、ステアリング操作に対しシャキッとした動きを見せる。その反応は早くそれなりにスポーティだが、スポーティすぎないところがいい。乗り心地も悪くない。ロールはしっかり抑えられ、キャビンはフラットにキープされる。試乗車は17インチタイヤだったが、マッチングに違和感なし。SUV専用タイヤと相まって挙動を安定させてくれた。
アクセルに対するパワーの出方が自然なのが好印象。BEVだからといって、元気にピーキーに仕立てる時代は終わったといっていいかもしれない。ガソリンエンジンのようにアクセル開度のコントロールが自在にできる。それでも、スポーツモードにするとかなり速く走れる。場面によっては思った以上に反応が鋭く、その意味ではBEVっぽくなるが、モーターの恩恵が素直に感じられる。高速道路での合流や追い越しなどに効果的に使うといいだろう。まぁ、ずっとそれで都内を走っていたら、電費はかなり悪くなりそうだが。
アベンジャーのプライスは580万円。発売を記念して電動サンルーフ、18インチアルミなどを特別装備した150台限定のローンチエディションは595万円となる。装備を考えるとこの価格差は安い。とはいえ、お勧めは17インチの標準車かな。いずれにせよBEVの中で魅力的な1台であることは間違いない。