VWのSUV、T-Crossがリフレッシュした。T-Crossは2019年に欧州デビュー。わずか5年で世界累計販売台数が120万台を突破した人気モデルである。日本でも2020〜2022年の3年連続で輸入SUV販売トップの座を獲得、2023年は、兄貴分のVW T-Rockに1位の座を譲ったものの2位を堅持し、相変わらずの好調ぶりをキープしている。
人気の要因をインポーターは、デザイン/価格/コンパクトサイズと分析。マイナーチェンジで、それらの魅力を一段と鮮明にしている。
デザインは、VWらしく端正なプロポーションはそのままに、ライト回りやバンパーの造形をリファイン。中でも「X」をモチーフにしたLEDテールランプは、なかなかおしゃれだ。」まじめ「なイメージを損なわない範囲で、遊び心を巧みにトッピングしている。
ボディカラーも新鮮である。全8色のうち、キングスレッドメタリック(写真)、グレープイエロー、クリアブルーメタリックの3色は新色。どれもポップさと適度な落ち着きを感じさせるいいカラーリングだ。色選びは、クルマを購入する際の大切なポイント。T-Crossには、ちょっと冒険したくなるカラーが揃っている。
価格も魅力的だ。輸入車ながらスタート価格は329万9000円、全グレードが300万円台に収まる。渋滞から高速走行までドライブを完全サポートするトラベルアシストをはじめ、LEDヘッドランプやスマートワイヤレスチャージングなどを標準装備した上でのプライスである点に価値がある。試乗車は中間グレードのTSIスタイル(359万9000円)。デザインパッケージ(専用インテリア、ブラックドアミラー、18インチアルミ、Beatsプレミアムサウンドシステムなど/9万9000円)とセーフティパッケージ(レーンチェンジアシスト&駐車支援システムなど/8万8000円)、さらにディスカバープロパッケージ(純正ナビシステムなど/16万5000円)を装着したフル装備状態だったが、それでも395万1000円。内容を考えるとお買い得である。
ボディサイズも絶妙。スリーサイズは4140×1760×1580mm。日本の道路環境でも扱いやすく、かといって小さすぎない。ポロ(同4085×1750×1450mm)がベースなだけに全長と全幅はほぼ同等。全高を高めることでSUVらしい存在感と運転のしやすさを実現している。SUVはオーナーを行動的にするクルマだ。T-Crossのコンパクトサイズは、気軽に出掛けようという気分にさせる。ファーストカーとしてもセカンドカーとしてもピッタリのいい相棒である。
実際にステアリングを握ると、T-Crossがなぜ選ばれるのかが実感できた。乗り込む段階から、いい雰囲気を感じる。適度に重く、しっかりとした印象のドア開閉に始まり、VWらしい張りを感じるシートの作りは絶妙。もちろんドライビングポジションは自然な設定で、適度にアイポイントが高いため視界もワイドだ。T-Crossには、ドライバー、そしてパッセンジャーを優しく包み込む高い機能性と、適度な「いいもの感」がある。
パワートレーンは、1リッターの直3DOHCターボ(116ps/200Nm)と7速DCTの組み合わせ。駆動方式はFFだ。メカニズム面は基本的に従来と共通。改良する必要がなかったからだろう。
エンジンは高速道路を含めて必要十分以上のパワーを発揮。まさに思いのままに走れる。意外に速い印象だ。7速DCTはパドルを備え、アクティブなドライビングにも対応する。アクセルをあまり踏み込まない発進時こそ、もうちょっと加速を鋭くしてほしいと感じるが、それ以外は不満を覚えるシーンはない。静粛性も全般的に優れている。WLTCモード燃費は17.0km/リッター。燃料タンク容量は40リッター確保され、航続距離は十分だ。
T-Crossで、ドライビングを楽しいと感じさせるポイントは、そのフットワークである。欧州で鍛え上げられただけに、スピードが上昇するほど安定感が増し、乗り味はフラットに変化。どこまでも走って行きたくなる。一方で街中の乗り心地も優秀だった。試乗車はオプションの18インチタイヤを装着していたが、よく履きこなしていた。乗り味は基本的に硬めだが、適度なしなやかさを持ちあわせている。
巧みな室内パッケージにも感心した。前席はもちろん、後席の居住性も優秀。どの席に座ってもくつろげ、着座姿勢が自然なため安心感が高い。ラゲッジスペースのアレンジ性も素晴らしい。後席はスライド機能付きで荷室の広さを調節可能。容量は後席使用時で455リッター。6対4分割のシートバックを倒すと最大1281kgに拡大する。
T-Crossは、VWのまじめな魅力が凝縮した仕立てのいいSUV。乗るほどに生活に寄り添い、ライフスタイルが広がる優等生である。