【スーパーカー新時代】フェラーリ「ドーディチ・チリンドリ」は、マラネッロの過去/現在/未来が体感できる極上マシン

6.5リッターのV12を搭載するドーディチ・チリンドリのロングノーズには 「跳ね馬」のエンブレムがよく似合う。ノーズ回りは1970年代の名車、デイトナをモダナイズしたイメージ。スポーツカー王道デザインの現代的な解釈

6.5リッターのV12を搭載するドーディチ・チリンドリのロングノーズには 「跳ね馬」のエンブレムがよく似合う。ノーズ回りは1970年代の名車、デイトナをモダナイズしたイメージ。スポーツカー王道デザインの現代的な解釈

跳ね馬の誇り、それは12気筒ユニット

 その名もフェラーリ「12気筒」。何とも直球ど真ん中の車名で登場したマラネッロの新たなフラッグシップ。大方の予想を(いいほうに)裏切ってピュアな自然吸気の12気筒エンジンを搭載してきた。

 完全フロントミッドに搭載されるF140HD型は812コンペティツィオーネ用F140HB型をベースに開発されたユニット。総排気量は6.5リッターで最高出力830cv/9250rpm、最大許容回転数9500rpm と、だいたいのスペックはF140HBと同じだ。ただし最大トルクだけは678Nmと若干下がっている。そのためその発生回転を7250rpmとHB型より250rpm上げて馬力を稼ぐ必要があった。ユーロ6をはじめとする排ガス規制や騒音のレギュレーション対応のため、排気系をメインに再設計したことが要因である。

 要するにマラネッロは「純エンジンの勝負」もしばらく続けられると判断して開発プログラムを継続した。フェラーリは生まれたときから12気筒を積んでいる。積極的に諦めるという戦略はない。世界の、とくに欧米日といった主要マーケットにおける規制動向を視野に入れつつ、可能な限り延命を図りたいというのが本音だろう。

前後開口

エンジン

 アストンマーティンも莫大な再投資を行い、新型ヴァンキッシュにほぼ新開発のV12を搭載して話題になった。背景には顧客の強い要望があったという。フェラーリなら要望は一層強いはず。さらにカーボンフリー燃料への期待や電動パワートレーンの不確実性(レギュレーションやバッテリー性能)に対するリスク回避の側面も大いにあった。要するに現時点で「悪くないビジネス」を展開しているブランドにとって、電動化一本槍は実に心許ない。トヨタではないけれどスーパーカーブランドもちょっとしたマルチパスウェイ戦略を強いられている、といえそうだ。

性格はマラネッロ製ロードカーの王道。極上グランドツアラー

 正式名はドーディチ(12)チリンドリ(気筒)。日本でもそう呼ぶ。アメリカでは「トゥエルブシリンダー」と呼ぶことにしたらしい。日本人にはドーディチがいいづらいので、もっぱらチリンドリとだけいうようになってきた。さっそく試乗の印象を報告しよう。

 試乗の舞台はルクセンブルク。日本人にとっては、目立った産業がないのにお金持ちという、よくわからない国のひとつだろう。地図で見ればフランス、ドイツ、ベルギーに囲まれ歴史に翻弄された地域であろうことが容易に想像できる。

ライト

ピラー

 マラネッロが主要モデルの試乗会をイタリア国外で開催することは珍しい。12気筒の2シーターに限っていえばおそらく初めてだろう。どうしてルクセンブルクなのかというと、もちろんカスタマープロフィールに合致したお金持ちが多い国であること。もうひとつ、今回久しぶりにフェラーリの純正装着タイヤとなったグッドイヤーのテスト施設があるからだ。要するに中央ヨーロッパのカントリーロードとタイヤメーカーのテストトラックで12チリンドリの性能を存分に楽しんでほしい、というメーカーの狙いである。

 果たして12チリンドリのドライブフィールは「衝撃的」だった。想像とはかけ離れていた。812コンペティツィオーネはもちろん、812スーパーファストともまるで異なる。冒頭でマラネッロの新フラッグシップと書いたが、どうもそうではない気がしてきた。そういえばフェラーリは12チリンドリの発表時にこんなことをいっていた。
「この新型モデルはマラネッロ製ロードカーラインアップの「中央」に位置する」と。

 フェラーリのロードカーコンセプトは大きく2つに分かれている。GT志向とスポーツ志向である。現時点ではGTの最左翼がプロサングエで次にローマ、スポーツの最右翼がSF90シリーズで次に296シリーズだ。12チリンドリはローマと296の間、つまり中央に入ると彼らは明言した。

リア走り

インパネ

 実際に乗ってみての感想は「そのとおり」である。中央ヨーロッパののどかな、そして交通量の少ないカントリーロードや高速道路を走っていると、素晴らしくよくできたグランドツアラーであることがわかる。V12エンジンはドライバーのすぐ近くにあって存在をつねに感じさせる。けれども、それはノイズや振動ではなく、あくまでも心地よいサウンドで、だ。驚くべきことに9000rpmまで回してもまるでパワートレーンの震えを感じない。モーターを回しているような感覚だ。加えて8DCTの変速は、ほとんどシームレス。瞬間的で実に滑らかだ。もちろん、力強さは半端ない。新たな機能であるATS(アスピレーテッド・トルク・シェイピング)も手伝って、体感以上の速さでとんでもない速度領域へとあっという間に導かれた。もちろん室内で聞くサウンドは劇的だ(爆音ではない)。

 12チリンドリは、ハンドリングマシンでもあった。ワインディングロードはもちろん、テストトラックでもその本性は紛れもなくスポーツカーだ。とくに縮められたホイールベースと後輪操舵が凄まじく効いている。シャシーの電子制御もさらに綿密に練り上げられ、ハイパワーを自在に操っているという感覚が乗り手にはつねにもたらされる。新時代の、けれども伝統的なピュア12気筒マシン、まさにマラネッロの真骨頂である。

シート

メーター

セレクター

諸元

 

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