FRスポーツの代表選手でもあったコルベットがミッドシップに変更されて久しい。8代目となるC8の登場は衝撃的だった。2019年7月にアメリカで行われた発表会のライブ配信を観ていたが、ニュースだらけの内容だったのを覚えている。それまで1958年型C1からC7まで全世代を幾度も取材し、その都度ステアリングを握ってきた立場からも、C8が新世代コルベットの扉を開けたことを感じた。
そんなC8だからなのだろうか、ついにモーターを積んだコルベットが誕生した。プラグインハイブリッドではなく、ハイブリッドモデルとしての登場となる。名前はE-Ray(イーレイ)。エレクトリックを示す「E」と「スティングレイ」を組み合わせたアメリカ人的発想のネーミングが付けられた。
特徴はフロントアクスルにモーターが取り付けられたこと。これまで同様リアはミッドにマウントされたV8のOHVで駆動するが、前輪はモーターが駆る。つまり、コルベット史上初の四駆が誕生したわけだ。前後がプロペラシャフトでつながってはいない、いまどきのヨンク方式である。名称はeAWD。確かにモーターを積むことを考えれば、FRパッケージよりこちらのほうが効率的だろう。
こうしたパワーユニットを搭載したE-RayのボディがZ06(ジーオーシックス)ベースであることも大事なポイントだ。つまり、全幅はスタンダードボディよりも幅広の2025mm。リアタイヤはなんと345/25ZR21を装着する。偏平率25の超ロープロファイルタイヤだ。
その大きなタイヤが受け持つのがLT2と呼ばれる6.2リッター・V8自然吸気エンジン。最高出力502psを発揮し、NAらしく気持ちよく吹き上がる。リンケージを使う伝統のOHV形式を継承するが、そこでのネガティブさは感じないことを付け加えておこう。
フロントモーターを動かすのは1.9kWhのリチウムイオン電池。これをセンタートンネル内にレイアウトする。フロア下では車高が上がってしまうのでこうなったが、これはレヴエルトと同じ発想。スーパーカーの限られたスペースではここにバッテリーを積むのがスタンダードとなるのだろう。モーターの出力は162ps。V8エンジンと合わせてシステム最高出力664psと表示している。充電は回生ブレーキと走行中のエンジンから自動充電されるようになっている。
そのモーターを使って走らせるのがステルスモード。いわゆるEV走行となる。早朝や深夜にガレージを出入りする際に有効のモードだ。ただ作動させるにはちょっとした儀式が必要。スターターを押す前にステルスモードをセレクトし、シートベルトを締めてドアを閉めて……という段取りがある。前提として電気が残っているかも確認が必要だ。すべてが整えば人生初の「音のないコルベット」を体験できる。
走らせた印象は運動性能の高さが際立つ。そもそもC8のセールスポイントはそこだが、バッテリーを積みフロントにモーターを装着してもスポイルされることはない。ステアリング操作に対するレーシングカーのような挙動はそのまま生きている。それと乗り心地のよさに驚いた。E-Ray専用チューンのZERパフォーマンスパッケージが絶妙なライドコントロールを実現する。目の前の段差を見て瞬間的に歯を食いしばっても、強い入力なしで乗り越えるのだ。
ステルスモードのフロント駆動も違和感なし。低速時のみの使用とあって、スーッと走り出す感じ。ただアクセルをいきなり踏み込むと一瞬でエンジンがかかるのでそこは慎重に。住宅街の静寂を一気に破壊したらクレームが来るかもしれない。
以上がE-Rayの概要だが、スペックだけ見るとヨーロピアンスーパーカーに匹敵するが、そこは唯一無二のアメリカンスーパーカー。中身には彼ら流の進化が見られる。コルベットの伝統はまだまだ続きそうだ。