EX-90は、ボルボの新しいフラッグシップSUVであると同時に、電動化を積極的に推し進める同社の方向性を象徴するモデルである。それはエクステリアデザインにも端的に表れている。
たとえば、従来のフロントグリルに相当する部分は、もはや「グリル」とは呼べないフラットなパネルで覆われるとともに、ボルボのトレードマークであるアイアンマークも、このフラットなパネルを前提とした新しいデザインに改められた。同様のデザインは、先にデビューしたEX-30にも採用されているが、これは両モデルがEV専用車種として開発されたことを物語っている。
ボルボのEVとしていち早くデビューしたC-40とXC-40は、エンジン車をEVにコンバートした関係で、フロントグリルをあとからフラットなパネルで埋めたデザインとされており、アイアンマークも「エンジン車時代」のものを引き継いでいた。つまり、C-40/XC-40とEX-30/EX-90とでは世代的に大きく異なっているのだ。
そうした違いはEX-90のハードウェアにも反映されている。2016年にデビューしたXC90以降の現行型ボルボは、SPAもしくはCMAと呼ばれるプラットフォームのいずれかを用いてきた。EV専用モデルとして開発されたEX-90は、SPAをEV用に最適化したSPA2という新プラットフォームを採用。名前のうえではSPAの改良版との位置づけだが、担当エンジニアによれば、一部に流用パーツはあるものの、実質的には新規開発といっていい内容だという。
試乗したEX-90 ツインモーター・パフォーマンスというグレードは、このSPA2に111kWhという大容量バッテリーを搭載。前後車軸に1基ずつモーターを置くことで、最高出力517ps、最大トルク910Nmを生み出すハイパフォーマンスモデルである。ちなみに0→100km/h加速は4.9秒という俊足の持ち主だ。最高速度をあえて180km/hに制限しているのは、ボルボらしい安全性への配慮によるものである。
メカニズム面でとりわけ興味深いのが、後車軸に設けられたデュアルクラッチ式トルクベクタリングである。これは、従来のディファレンシャルギアに換えて2組の電子制御式クラッチを搭載したもので、左右の後輪に伝達する駆動力を各クラッチの締結度合いによって制御するというもの。したがって、外輪の駆動力を高めればトルクベクタリングの役割を果たすことになるが、EX-90では高速直進時にも左右の締結状態を微妙に制御して直進性の向上(厳密にはヨーダンピングの改善)にも役立てるという(パフォーマンス・モードのみ。ノーマル・モードでは30km/h以上でクラッチを開放し、効率の改善を図る)。
国際試乗会の舞台はロサンゼルス郊外。走り始めてすぐに感じたのが、その乗り心地の快適さと高い静粛性だった。
前述したXC90以降の現行型ボルボは、スポーティなハンドリングを狙いすぎたためか、乗り心地は全般的に硬めで、中にはサスペンションがストロークするのを軽く拒むような所作を示すモデルもあった。
エアサスペンションを装備したEX-90は足回りの動き出しが実に滑らか。路面からのショックを見事に吸収してくれる。それでいながらフラットな姿勢を崩さないので、長距離ドライブ時の疲労を最小限にとどめてくれる。
この、姿勢をフラットに保ってくれる足回りは、当然のことながらハンドリングの面でもプラスをもたらす。ターンインに伴うロールが小さいため、ステアリング操作に対する遅れが少なく、コーナリング時にも正確で軽快なハンドリングが楽しめる。
率直にいって、かつてのボルボは乗り心地は快適だったけれど、ハンドリングはやや鈍重だった。そしてXC90以降はハンドリングが軽快になったものの、乗り心地が快適とは言い難かった。この二律背反を、先にデビューしたEX-30とEX-90は完全に乗り越えたといっていい。このあたりは、EVの低重心設計が功を奏したものと考えられる。
一方で動力性能は十分以上。フルスロットルではスポーツカー並みの加速感を味わえるが、市街地をゆったり流す際のコントロール性は高く、不満は見当たらなかった。また、ブレーキペダルを使わなくても十分な減速力が得られるワンペダル・コントロールも唐突感が少なくて扱いやすいと評価できる。
北欧家具を思わせるインテリアデザインはセンスがよいうえに質感も上々。タッチディスプレイに多くを依存した操作系にはテスラからの影響を感じなくもなかったが、こちらも特段の違和感は覚えなかった。
試乗会とほぼ同じタイミングで、ボルボは2030年までに完全EVメーカーになるという目標を取り下げ、同年までに販売台数の90〜100%をEVもしくはPHEVにする新たな目標を掲げた。とはいえ将来的に完全EVメーカーとなる方針に変わりはない。そうした戦略を鑑みても、新フラッグシップであるEX-90の果たす役割は小さくないといえる。