【ドイツ勢の最前線/最新モデル試乗】最新1シリーズはベストバランスな操縦性が魅力。BMWは前輪駆動を完全に手なずけた!

BMW120Mスポーツ/価格:7DCT 498万円。新型はプラットホームこそ従来モデルのリファイン版だが、開発コード名をF70に刷新。日本仕様は1.5ℓマイルドHV仕様の120系(478万〜498万円)と2ℓターボのM135 xドライブ(698万円)を設定

BMW120Mスポーツ/価格:7DCT 498万円。新型はプラットホームこそ従来モデルのリファイン版だが、開発コード名をF70に刷新。日本仕様は1.5ℓマイルドHV仕様の120系(478万〜498万円)と2ℓターボのM135 xドライブ(698万円)を設定

1シリーズはドライバーズカーとして確実に進化している

「FRサイコー」とか「やっぱミッドシップだね」などと、クルマの善し悪しや選択基準をパワートレーンのレイアウトで判別する人は、よっぽどのクルマ好事家だけになっている。クルマを普段のアシとして使っているユーザーの中には、通勤電車の車両メーカーがどこなのかをまったく知らない人がいるのと同様に、愛車のエンジンが横置きか縦置きか、あるいは前輪駆動か後輪駆動かなんて考えたこともなければそもそも知らない人も少なくないという。

2台並び

 FRであることを自社の最大の魅力として広く世に知らしめてきたBMWでさえ、2019年にモデルチェンジした3代目の1シリーズを、それまでの後輪駆動から前輪駆動へと改めた。いわく「1シリーズに興味を持ってくださるお客様のほとんどは、もはや駆動形式に関心がなくなってしまっている」とのこと。BMWの社内事情としては、MINIと1&2シリーズのプラットフォームを共有することでグループ内のコンパクトモデル開発の効率化を図る狙いがあったわけなのだが、BMWが分析したマーケットの現状はあながち間違ってはいないだろう。

 もし、1シリーズが初代から前輪駆動だったならマーケットの反応も違っていたかもしれないが、コンパクトモデル唯一のFRとして1シリーズが人気を博してきたのは事実である。3代目が前輪駆動になるとの噂が広がると、2代目の最終型を買い求めようとする動きが見られた。現在でもユーズドカー市場では2代目までの1シリーズはそこそこの引き合いがあったりする。1シリーズに後輪駆動の魅力を求めるユーザーが一定数存在するのは確かである。

マスク

エンブレム

「駆動形式は関心ない」といっておきながらもBMWの本音は、「FRだから1シリーズを選んでくれたユーザーにもう一度戻ってきてほしい」だったようである。最新の4代目に乗って、そう感じた。4代目ももちろんFFレイアウトだが、いままでとは確実に違う。

新型はフレッシュ、何よりハンドリングが素晴らしい

 新型MINIがそうであるように、新型1シリーズもプラットフォームは従来型を踏襲している。よってホイールベース(2670㎜)は同値、開発コードはF40からF70と刷新された。ボディサイズは、先代よりも全長は15㎜ほど伸びて4370㎜、全高は1465㎜。全幅が1800㎜のままなのはうれしい限りである。

 この1シリーズ(そして、欧州での発表・発売がほぼ同時期となった新型X3)から、BMWの車名ルールが変更になった。グレード名に付く“i”が廃止されたのである。iはもともと“インジェクション”の意味だった。しかし現在はBEVにもiを用いるようになり、しかもいまや内燃機関でインジェクション仕様以外は存在しないため、混乱を避けるための処置とのこと。従って新型1シリーズの現時点での本国でのラインアップは、ガソリンが120とM135 xDrive、ディーゼルが118dと120dの計4タイプ。すでに日本でも発表が済んでいて、日本仕様は120(478万円)、120Mスポーツ(498万円)、M135 xDrive(698万円)の3モデルとなる。国際試乗会でキーを渡されたのは、ほぼ120Mスポーツに相当する仕様とM135・xDriveだった。

スタイル

エンジン

 120に搭載されるエンジンは1499㏄の直列3気筒ターボ。これに48Vのモーターが組み合わされたマイルドハイブリッド機構である。エンジンと7段DCTの間に挟まれたモーターは20㎰/55Nmを発生し、システム最高出力は170㎰(125kW)、同最大トルクは280Nmと公表されている。モーターの出力/トルクの値からも察しがつくように、このマイルドハイブリッドは動力性能の積極的なサポートというよりも、燃費の向上やスムーズな発進などが主な仕事である。

 BMWのとくに小排気量のマイルドハイブリッドはどれもそうであるように、モーターの存在はほとんどわからない。スペックの数値よりも力はあって、それでいて燃費も悪くないといった印象に留まる。もちろん、実際の動力性能も日常の走り方で不満はまったく見当たらない。一方のM135 xDriveは、パワーが全面に出るタイプである。1998㏄の直列4気筒ターボの最高出力は300㎰/5750〜6500rp、最大トルクは400Nm/2000〜4500rpm。ロングストローク(ボア82.0×ストローク94.6㎜)でありながら、レブリミット付近の高回転域まで間断なくよく回り、パワーも頭打ちになることなく出続ける。スポーツドライブには打ってつけだろう。ただし日常の使用範囲では、その旨味は30%くらいしか味わえないかもしれない。

インパネ

セレクター

 1シリーズで感銘を受けたのは操縦性である。プラットフォームは流用ではあるものの、局所的な補強による剛性アップが図られており、さらにフロントサスペンションのキャスター角を20%増やすことで、直進性とステアリングへのフィードバックを改善したそうだ。どちらの試乗車にも機械式可変ダンパーが装着されていて、優れた乗り心地と旋回時の無駄のないばね上の動きを両立。そして何よりドライバーの意図がクルマに正確に伝わり、期待どおりの動きをしてくれる。ステアリングを切り始めてから姿勢が安定するまでの過渡領域での動きはスムーズで気持ちよく、まるでクルマと対話しているようだった。これはFRのクルマを操っているときの感覚にとても近い。BMWはついに完全に、前輪駆動を自分たちのものにしたのだと実感した。

 駆動レイアウトやBEVを含むパワートレーンの違いにかかわらずキドニーグリルの付いたモデルは、今後もどれに乗ってもまごうかたなきBMWの乗り味になっているだろう。

シート01

シート02

諸元

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