BMW M5/8SAT 1998万円。M5は5シリーズベースの高性能車として長い歴史を誇る。写真のボディカラー(デイトナバイオレット)は1990年代のE34型でも採用。新型は大柄だが、ドライビングすると手の内に収まる
M5はいつの時代も洗練されたGTスポーツサルーンである。そのことを歴代モデルで再確認したのち、新型M5をテストした。舞台はBMWのおひざ元ミュンヘンだ。コードネームがG90となった新型(ベースはG60型の5シリーズ)には久しぶりに“バリアント”(変種)も存在する。G91ならぬG99、すなわち復活したM5ツーリングである。
新型M5で最も注目すべきポイントはやはりパワートレーンだ。M5初となるプラグインハイブリッドシステムを搭載。585psの4.4ℓ・V8ツインターボ+プリギアリングステージ付き電気モーター+22.1kWhバッテリーというパワートレーンのトータルスペックは最高出力727ps(535kW)&最大トルク1000Nmとスーパーカー顔負け。
それだけではない。試乗が楽しみだった理由はもうひとつ。最先端をいくサスペンションの制御統合システムだ。新型にはこれまたM5初となるインテグレーテッド・アクティブステアリング(4輪操舵システム)が備わった。
結論からいうと、歴代モデル、とくに1999年登場のE39あたりから顕著だった上質なドライブフィールがさらに洗練され、新型にもしっかりと継承されていた。要するにBMWらしさを極めた存在。究極の5シリーズ。G60ベースのアルピナB5がどうなるか分からない今、M5にはB5を兼ねる地力も備わったと言えそうだ。
とにかくすべてが高次元でバランスしている。最大トルク1000Nmと聞くと、ちょっと手に負えない感じもあるけれど、拍子抜けするほど扱いやすい。アクセルペダルを踏み込んでも、不安はまるでない。
エフェクトのあるなしにかかわらず耳に心地よかったのがV8ノートだった。ノイズと加速が見事にマッチする設定がたまらない。深く踏み込まず、軽くペダルを押す程度の緩やかな加速でも気持ちいい。
そして、正確無比なハンドリングがそれに輪をかける。ドライバーのわずかな意思表示を察知して曲がる準備をしてくれるから、まるで前輪が進むべき道を知っているかのようだ。それでいてアジャイルすぎるとは思わない。あくまでもドライバーの意思に忠実。自然なニンブルさがハンドリングを精緻に感じさせる最大の理由だろう。
中でもコーナリング中の姿勢が気に入った。車体のロール姿勢とドライバーの握ったハンドルの位置関係は絶妙。たまらなく気持ちいい。旋回姿勢がいいのだ。背の低いモデルならいざ知らず、ハコ車ではコーナリング中にしっかりとした姿勢を作り出すことが最も大事だ。
1000Nmの加速フィールには誰もが驚かされるに違いない。とりわけ中間加速は本当に素晴らしい。重量を忘れさせてくれる。それでいて速度感は低めだから、速度計の数字を見てかえって驚く。アウトバーンではあっという間に280km/hを超えた。
なお、空荷のツーリングでもほとんど同じドライブフィールだった。運転中に、後方に荷室があると感じることはまったくなかった。