リーフ、アリアに続く日産としては第3弾の量販電気自動車(BEV)となるサ クラ。軽自動車規格のコンパクトなボディに最先端のe-パワートレーンを搭載 し、その扱いやすさからEVの常識を覆し、2022、2023年度と2年連続 でEV販売台数ナンバーワンを獲得している。今回は補助金を利用すると200万円 以下で購入可能な最量販グレードXに試乗し、その人気の秘密を探ってみた。
日常の足、そんなに遠出はしない、チョコチョコ乗り、つまり乗ったり降りたりすることが多い、狭いところに止める機会が多い、乗員数の平均は1.4名……。一般的にいわれる軽自動車の使い方としては、このような感じになるようです。
それならば! と、この使い方に特化して、ある意味割り切って考えれば、より使いやすくて、価格的にもリーズナブルな、コストパフォーマンスが高い軽自動車のEVができるんじゃない!? という発想で生まれたのがサクラなんですよね。日産自動車と三菱自動車が共同で行っているNMKVから生まれた1台で、三菱自動車のeKクロスEVとは兄弟車種になります。
近年の日産自動車は、いわゆるOEM(相手先ブランド製造)で軽自動車を作っていた期間が長かったのです。三菱自動車のeKシリーズも、日産自動車にOEM供給されていました。さらに、三菱自動車はi-MiEVに代表される軽自動車のEVを長年作っていた実績があり、すんなりとeKクロスEVに移行できたのではないかと思います。
もちろんEVに関しては、日産自動車もハイパーミニやリーフといったモデルをいち早くリリースしていたという歴史がありますから、両社の知見のイイトコ取りができたのも大きかったのでしょうね。
さて、そのサクラですが、前述した軽自動車の使い方に合わせて、一充電での走行可能距離が180kmとなっています。昨今のEVは一充電で500km走行できるようなモデルもありますから、これを長いとみるか短いとみるかは分かれるかもしれませんが、軽自動車で一度に毎日180km以上走るユーザーは、実際そこまで多くないのではないかと思います。
ちなみに宅配業者の方の走行距離は、一日約150km、長くても200kmには届かないといわれますから、そうなると一般的な軽自動車として考えれば十分な距離ではないでしょうか。距離をもっと延ばすには、もっと電池をたくさん搭載すればよいわけですが、そうなると重量も増えますし、場所も取りますし、なんといっても価格が高くなってしまいます。それは、軽自動車としてのコストパフォーマンスを考えると、好ましくない方向だと思うんですよね。それならば、電池搭載量を割り切ろうと英断したのが、サクラの最大の美点ではないかと思います。
そして、その適度な電池の搭載量により、運動性能が高レベルにまとまっているのもいいところです。軽自動車は全幅1480㎜以下という規定があるので、当然のことながらタイヤのトレッド幅を広げることはできません。にもかかわらず、最近の軽自動車は全高が高めのモデルが多いわけです。スーパーハイトワゴンなんて、ミニバン顔負けの背の高さですからね。
となると、バランス的にはあまりよろしくない。極端にいうと、つま先立ちのような状態といってもいいかもしれません。どうしたって重心が高くなりがちなんですよね。
ところがEV化することで、このバランスの悪さが解消できてしまうんです。電池は重量物ですから、当然下のほうに搭載することが多いわけですが、これによって重心高が下がる。つまり安定感の高い、ドッシリとした走り味が生み出せるということです。軽ハイトワゴンの弱点ともいえる重心高の高さが、EV化することによって一挙に解消してしまうんですよ。
さらに、軽自動車のエンジンは660cc以下という規定があるので、パワーを出そうと思うと、どうしてもエンジン回転数が上がりがちになります。すると、当然のことながら音は騒がしくなる。この音を遮音しようと思うと、遮音材やら制振材やらを使うことになり、クルマの重量が増してしまって、今度は燃費には不利になってしまいます。
しかし、EVのモーター音はエンジン音に比べれば圧倒的に静かですし、ブルブル振動もありませんから、この面でも有利なんですよね。軽自動車のEV化は、実はイイコトのほうが多いんです。
また、デザイン面の考え方も素晴らしい。ひと昔前まではやっていたBEV=未来っぽさは影を潜め、BEVだからこその静粛性の高さや振動の少なさを生かした、ラグジュアリーな空間を演出しているところが好感度高いですよね。とくに、いまや日産自動車のフラッグシップカーとなった、アリアとイメージやモチーフに共通する部分が多く見受けられ、サクラを軽自動車のフラッグシップと位置付けているのがよくわかります。
軽自動車をEV化することによって生まれる長所を、フラッグシップと位置付けることでさらに伸ばし、結果として指名買いでサクラを選んだという、所有欲を満たしてくれる演出がきちんとできている点も、ヒットの真相のように思います。クルマを選ぶにあたり、自分のライフスタイルをきちんと分析することで新しい発見がありそうですし、またそれによって新たな趣味や生き方も見つけられそうな気がしませんか。
1)価格が高くなりすぎないように絶妙なバッテリー容量を選択しながら、航続距離を軽自動車としては必要十分な180kmを確保
2)リチウムイオンバッテリーを低い位置に搭載して低重心化を図り、軽自動車の水準以上に安定した走りと快適な乗り心地を実現している
3)EVだからこその静粛性の高さや振動の少なさを生かして、軽の枠を超えたラグジュアリーな空間を演出しており好感度が高い
たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員