今回紹介するWR-Vは本誌2024年11月号で紹介したホンダのコンパクトSUV、ヴェゼルとは異なり、ガソリンエンジン+FF仕様のみとするなど装備を割り切り、200万円台前半からという価格設定もあって高い人気を誇っている。では、売れている理由はそれだけなのだろうか? 実際に試乗して使ってみると、テレビCMで表現されている荷室の広さが関係していることがわかった。
「豪華装備万歳リッターの時代と逆行するような、いや実はいまの時代は「必要にして十分リッターでOKなのかもしれない。何よりも、ユーザーが必要とするニーズに合致しているかどうか、そのニーズを満たす機能性をきちんとアピールできるかどうかが重要……。
なんてことをツラツラ考えつつ、あのドデカイクマちゃんが、スーパーマーケットのカートに載せられているテレビCMのシーンを見ると、間違いなくWR-Vはちゃんと存在をアピールできているのだと納得できました。
だってね、このクルマをひと言で表すとどうなりますか? という質問があったとして「とにかくたくさん荷物を積めるコンパクトSUV」。このひと言で、WR-Vの性格をバッチリ伝えられちゃうと思うからなのです。
あの人気モデル、ヴェゼルの兄弟車種にあたるのですが、WR-Vはタイで企画開発されインドで生産されているクルマとなります。なので、アジアでウケるというか、グローバルで求められる要素が盛り込まれているわけです。
たとえば、ボディサイズはほぼヴェゼルと変わらないのに、ホイールベースは長く取られ、全高も上げられ、といった感じ。とくに全高が60〜70mm違うので、パッと見た瞬間、だいぶ大きく見えます。
また、ホイールベースが延長されているのがポイントで、その分を室内空間とラゲッジスペースに振り分けているというのですから、「とにかく人と荷物をたくさん積んで出かけるぞ〜」ということを目的としたコンパクトSUVだとがわかります。
実際、あのテレビCMほどの荷物を積めるかどうかですが、私自身、大量の荷物を積んでいるところをこの目で見ているので、ちょっと驚愕するレベルで積めることは間違いありません。
もうひとつの大きく違うポイントは、最低地上高です。195mmも確保されているんですよ。これコンパクトSUVとしては、十分な数値だと思います。3グレードが用意されているのですが、全グレードこの数値ですので、未舗装の道路が多い市場でも、ガンガン普通に使うことが想定されているのだと思います。
というのも、FFしかラインアップがないので、オフロード走行を楽しむというよりも、生活圏内が舗装されてないところも多いということを反映しているのだと思うんですよね。
兄弟車ヴェゼルも、PlaYパッケージのFFのみ195mmですが、あとは170mmとか185mmとか……。まぁ全高もさすがはシティアーバン派、大きめの立体駐車場ならOKと、ヴェゼル比で60〜70mm低いですからバランスを考えても妥当なところでしょう。
というより、ヴェゼルは4WDモデルもありますし、シティ派からアクティブ派まで用意したから、ライフスタイルに合わせてチョイスしてという余裕が伝わってくるんです。質感などを見てもそうなのですが、ヴェゼルに比べるとWR-Vは、現実的な生活の薫りがするんですよね。
パワートレーンは、イマドキのハイブリッドシステムもなく、直列4気筒1.5リッターガソリンエンジン専用という潔さ。しかもレギュラーガソリン仕様とお財布に優しい。うれしいじゃないですか。そして燃費は、WLTCモードで16.2〜16.4km/リッターを達成。いやはやこれで十分だと思ってしまうのは私だけでしょうか。
WR-Vは乗ってメチャクチャ速いとか、トルクフルとか、そういうトピックがある感じではないです。だからといって、物足りなさもないんですよ。必要にして十分なんです。ベーシックなシステムだから乗った感じもカジュアルで、豪華な雰囲気はいっさいありません。メッチャクチャ静かというわけでもありません。でも、なんだか安っぽくてイヤだなぁ〜というガッカリ感もないのが不思議なところで、このカジュアルな感じがいいじゃん! ラフな感じでいいじゃん! 洗いざらしのTシャツでいいじゃん! 短パンにビーサンでいいじゃん! むしろそれがいいじゃん! みたいに思えるんですよね。
家からちょっとそこまで、パッとお出かけするときに、玄関にいくつか靴が並んでいたとして、結局なぜかいっつもコレ履いちゃうんだよね〜というような、突っかけて履けるようなラフに使える履きやすい靴ってあるじゃないですか。まさに、そんな感じなんです。
クルマを複数所有されている方は、結局これ(WR-V)がいちばん出動回数多いんだよね、機動力が高いんだよねと、いわれるような気がします。なんとなくの感覚をひとつだけ理由付けするとしたら、最小回転半径5.2m。最低地上高190mm。心配することなくどこでも入っていけて、小回りも利いて取り回しもよくて……。ということなのかもしれません。
加えて、200万円台前半からというバーゲンプライスな価格もそうですが、気を遣わないでつきあえる、そこがWR-Vのヒットの秘密かもしれませんね。
1)仲間と荷物をたくさん載せて遊びに行けるコンパクトSUV。最小回転半径5.2m、最低地上高が195mmで取り回しが良くて扱いやすい
2)ハイブリッドやターボモデルなどは未設定だが、履きやすい靴のような感覚があって、カジュアルな感じでどこにでも乗っていける
3)クルマの価格が高くなっている中、200万円台前半からというバーゲンプライスな価格が魅力。気を遣わないでつきあえる
たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。