【クルマの魅力2025】未来永劫、名車R32 GT-Rの「楽しさ」を語り継ぐ! 開発プロジェクトリーダーが語るR32 EVの意味

R32 EVはアナログ(ICE)の良さをデジタル(BEV)で再現することを目指したプロジェクトモデル。R32の心踊る魅力を最新の解析技術で分析。開発で得た知見を今後のクルマ作りに活かすことが目的

R32 EVはアナログ(ICE)の良さをデジタル(BEV)で再現することを目指したプロジェクトモデル。R32の心踊る魅力を最新の解析技術で分析。開発で得た知見を今後のクルマ作りに活かすことが目的

30年、いや100年後の人たちに「内燃機関のクルマは楽しい」と伝えたかった!

 「東京オートサロン2025」の日産ブースに出展された「R32EV」は、電動車のパワートレーン開発を主導するエンジニアが、自身が30年前にワクワクした走りに改めて注目。R32の素晴らしさを未来に継承するために作り上げたプロジェクトカーである。社内では、R32をEV化することについて、賛否が分かれたという。

 R32 GT-Rは、歴代の日産車の中でも指折りの名車。そのクルマを1台つぶして、EV化することは、R32 GT-Rを冒涜するに等しい、というのが否定派の主張。それに対して、製作チームのリーダー、平工良三氏は、「R32が素晴らしいからこそ、このプロジェクトは立ち上がった。これはR32ルックのEVを作ることが目的ではなく、EVにR32の魂を込めることが目標」と、真摯に説得したという。

 R32 EV開発の背後には、「クルマの魅力」を考える上で、大切な要素が凝縮していると感じる。R32 EV制作チームリーダー、平工良三氏はこう語る。

リアimageR32 GT-Rの素晴らしさを後世に残すことが目標でした!

 私は1990年の入社以来、パワートレーンが生み出す出力をタイヤにどうやって伝えるかという領域を主に手掛けてきました。現在はパワートレーンシステムのエキスパートリーダーという立場で、e-4ORCEという電動4WDシステムなども担当しました。そんな私にとってもR32 GT-Rは憧れのクルマ。夢と希望です。今回のEVプロジェクトは、30年後、いや100年後の人たちに「内燃機関のクルマは運転して楽しい」ということをなんとか残したいと考えたのが原点です。

 R32 GT-Rを語る上で大切な要素が2点あると考えています。一つは圧倒的な速さ、もう一点は運転して楽しいことです。とくに運転の楽しさは、もし絶対的な速さがなかったとしても際立つポイント、R32独自の味だと感じています。今回のプロジェクトは、R32の素晴らしさを、モーター駆動でどこまで再現できるかにチャレンジしました。

真正面

モーター

 大切にしたのがエンジンサウンドと駆動フィールです。エンジンの音、とくにRB26DETT型が奏でるサウンドはエモーショナルです。今回、その再現をエンジンそのものの調査を通じて、かなり作り込んでいます。またシフトチェンジやアクセル踏み込みに応じたトルクの立ち上がりにもこだわりました。普通のBEVのように無音で走行することも可能ですが、R32 EVは室内にスピーカーを配置していて、R32ならではのサウンドを楽しめます。また専用パドルを設け、操作時はサウンドも変化、さらに実車と同様のトルク変化を与えることで、ドライバー自身がドライビングのリズムを演出することが可能です。

 R32を電動化する作業は、思った以上に大変でした。R32が誕生した時代はCADがなかったので、まずは分解して、それぞれのパーツを3D化で起こすという作業からスタートしました。モーターはリーフ用を前後に搭載し、電動車ならではの緻密な制御を行うことでエンジン車特有の加速感の再現を目指しました。4WDシステムもアテーサE-TSから前後2モーター4WDに変更しています。バッテリーはリーフNISMO RC02と同じユニットを使用し、電動化によって増大した車両重量(1797kg)に合わせてモーターの出力/トルクをチューニング。パワーウエイトレシオをR32 GT-Rに合わせています。ちなみにバッテリーの搭載で前後重量配分は、オリジナルよりフロントヘビーが改善されました。

走り01現代の名工、加藤博義氏がテストドライブ!

 エクステリアはオリジナルの外観をそのまま生かしていますが、ストッピングパワーを確保するためR35 GT-Rのブレーキシステムを移植。ホイールはオリジナルと同様の5本スポークデザインを細部まで再現した18inアルミを新規で作成しました。
 インテリアは、メーターとセンターコンソール表示部をオリジナルと共通イメージの液晶パネルを製作。特注のレカロシートや、後席部に搭載したバッテリーにはSKYLINEのロゴをあしらっています。ちなみにバッテリー搭載のためR32 EVは2シーターです。

室内

ホイール

 R32 EVプロジェクトを通じ、クルマの楽しさを構成する要素を分解する作業を行った結果、電動車であっても、かなり楽しい電動車が作れることが分かりました。完成車は、現代の名工、加藤博義氏にもテストドライブしてもらいました。まだまだクルマもテクノロジーも進化します。その中でR32 GT-Rのようなフィーリング、味わいは残さないといけないと思っています。R32のアナログ(エンジン車)の魅力を。デジタル(EV)でも再現できれば、未来でもR32 GT-Rの魅力が体験できるのです。今回のプロジェクトは、いわば「クルマのデジタルリマスター版」のようなもの。このクルマは商品化を目指してはいませんが、若いエンジニアとともに“楽しいクルマとは何か”を今後も探求、磨いていきたいと考えています。

 平工氏の言葉を聞いて、クルマの魅力は、まだまだ未来に続くと実感した。R32 EVが提示した価値観は、クルマ好きに大きな共感を与える。だからクルマは面白い。

走り02日産R32 EV 車両概要

リアimage

ベース車両=R32型スカイラインGT-R(BNR32型)
全長×全幅×全高=4545×1755×1340mm
車両重量=1797kg
モーター最高出力=160kW×2
モーター最大トルク=340Nm×2
乗車定員=2名
駆動方式=ツインモーター4WD
駆動バッテリー=リチウムイオン電池(リーフNISMO RC02)
燃料=電気
タイヤサイズ=245/40R18

プロフィール【平工良三】プロフィール
ひらく りょうぞう/日産自動車パワートレインシステム エキスパートリーダー、工学博士。1990年に入社し駆動実験部に配属。その後、事業計画担当を経て2002年にはドライブトレイン開発部主担に就任。2012年以降はPT先行開発部部長として日産のパワートレイン開発を主導している

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