【最新モデル試乗】ホンダならではの「技ありモデル」。CR-V e:FCEVは世界初、プラグイン機能付き燃料電池車のすごーい実力

ホンダCR-V e:FCEV/価格:809万4900円(CEV補助金255万円)。FCEVとして約621km、BEVとして約61km走行可能な究極の環境対応車。水素充填時間は約3分でOK

ホンダCR-V e:FCEV/価格:809万4900円(CEV補助金255万円)。FCEVとして約621km、BEVとして約61km走行可能な究極の環境対応車。水素充填時間は約3分でOK

普段はBEV、長距離は水素で走るマルチな設計

 ホンダは1980年代後半にいちはやく燃料電池(フューエルセル=FC)の基礎研究をスタートさせた歴史を持つ。一貫して技術向上にいそしみ、すでに何世代かのFCEVを世に送り出してきた。

 前作に当たるクラリティ・フューエルセルの販売終了から2年半が経過。最新作のCR-V e:FCEVは、通常のBEVのように外部から充電できるように進化したのが最大のポイントだ。
 FCEVが持つ航続距離の長さ、そしてわずか3分でフルチャージできる充填時間の短さといった水素のメリットをそのままに、家庭や外出先で充電できるプラグイン機能を加えたことで、開発陣は「現時点で最も現実的なFCEVになった」と説明する。

 要となるFCスタックは、米GMとの共同開発を通じて生み出されたもの。完成までにはさまざまな苦労があったというが、その甲斐あって新開発FCスタックのコストは従来比で3分の1、耐久性は2倍以上を実現した。たいしたものである。
 最新のFCスタックを搭載するのは、FCEVのさらなる普及を見据えて、ガソリン車、HEV、PHEVをラインアップしているワールドカー、CR-Vが選ばれた。

透視図

真横

 技術上の大きなポイントは、FCシステムと駆動用モーター&ギアボックスを一体化した点にある。これによりガソリン車のエンジンマウントをそのまま使うことが可能となり、専用プラットフォーム化する必要がなくなった。この利点はNV(騒音と振動)性能の向上にもつながったという。

 大容量のIPUバッテリーはPHEVと同様に床下に配置。水素タンクは居住性、走行安定性、衝突安全性などを考慮して車両後部にレイアウトされた。リアシートの下と後方に横向きで計2本の水素タンクを搭載している。

 先発のトヨタのFCEV(MIRAI)は中央部にもう1本、縦向きに配置。合計3本のタンクを搭載している。水素容量を稼ぎ、航続距離の増大を図るためである。しかしパッケージング上、その影響は小さくなかった。

 その点、CR-Vはタンクの本数こそ及ばないが、車内は広く居心地がよい。この点はむしろ強みといえそうだ。ちなみに1充填当たりの走行距離は約621km、充電時BEVとして61kmほど走ると公表されている。

 CR-Vはラゲッジスペースも実用的だ。水素タンクをリアシート後方に搭載するとトランクが狭くなるが、それを逆転の発想でプラスに転換した。フレキシブルボードとフォールドダウン式リアシートを採用し、新しい使い方ができるよう工夫している。

 このような話題とともに誕生したCR-V e:FCEVは、アメリカのオハイオの工場で生産。日本では輸入車としてリース販売される。ただし、日本への割り当ては年間70台に限られる。

ナチュラルで心地いい走り。最先端クリーンカーは完成度が高い

 スタイルは標準CR-Vと少し異なる。システムを搭載するため、ベース車に対してフロントオーバーハングが120mm伸ばされているからだ。ボディカラーはホワイトと濃いグレーの2色のみとなる。

 車内は、FCEVとしての情報や充電情報が表示できるほか、ステアリングホイールには触感のよい合皮が、シートにはバイオ合皮が採用されている。先進性の演出はあえてされていないが、各部の質感は高く、作りもいい。

リア

インパネ

 エネルギーマネージメントのモードは4タイプから選べる。FC電力とバッテリー電力を自動で最適制御するAUTO、バッテリー残量を維持するSAVE、FCからバッテリーを充電するCHARGE、十分に充電されている状態でバッテリー電力を優先して使うEVだ。これはコンソール部のスイッチで切り替える。

 ドライブフィールは心地いい。扱いやすく十分に力強い。静かで滑らかなフィーリングだ。低速から 310Nmのトルクを安定して発揮するモーターにより、極めて車速のコントロールがしやすい。

 驚くほど速いわけではないが、これだけ意のままに走ってくれればまったくストレスはない。ノーマルモードでも不満はなく、スポーツモードを選択するとアクセルレスポンスがより俊敏になる。

 充電モードでもシステム作動音が高まらないのはFCEVなればこそ。もちろん排出ガスやCO2を出すことなく、出るのは水だけ。それは走行時も、外部に給電するときも同じだ。心理的な負担がなく、環境に貢献している実感が持てる。

 フットワークは自然で、重々しさはない。標準CR-V(HEV/2WD)に比べて重心高は11mm低くなっており、重量配分についてもフロントヘビーかと思いきや、0.8%と微増にとどまっている。これらによりロールの遅れは小さく、一体感のある走りを実現している。

シート01

シート02

 ボディも実にしっかりとしている。さまざまなコンポーネントの搭載に対応した車体強化を行い、全面にフロアカバーを配して標準CR-Vと同等の空力特性を実現。フロントのボトムにスポイラーやストレイキを追加して、接地感と直進安定性の向上を図った。

 FWDモデルながらオフロード走行にも配慮されており、最低地上高は29.2mm減となるものの169mmを確保。アプローチアングルやランプブレイクの落ち幅は小さく、デパーチャーアングルはむしろ拡大しているというから驚く。

 FCEVに興味があっても、インフラ整備の関係で購入を断念していたユーザーにとって、プラグイン充電ができるようになったことは、背中を押す大きな一歩。実際にドライビングして次世代の主役と感じた。

エンブレム

諸元

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