竹岡圭 K&コンパクトカー【ヒットの真相】VW T-Cross「コンパクトで使いやすい。走りは軽快」(2025年3月号)

フォルクスワーゲンのSUVシリーズの中で、最小モデルがT-Cross(ティークロス、以下Tクロス)だ。2019年11月に発表されて以来、2020年~2022年まで3年連続で輸入SUVカテゴリーで販売台数第1位を獲得している。今回は2024年9月にマイナーチェンジを実施した最新モデルに試乗し、その真価を徹底的に追求してみよう。

 T-Cross(以下Tクロス)は2019年末に発表。年が明けて初春からデリバリーが開始されたにもかかわらず、2020年~2022年まで、輸入SUVで3年連続登録台数No.1。惜しくも2023年は、マイナーチェンジ前という関係もあり、その座を明け渡しましたが、抜かれた相手はお兄ちゃんにあたるTロック。つまり、フォルクスワーゲン(以下、VW)のSUVが2020年からずっと輸入車No.1なんです。これって、スゴイですよね。

 

 VWからはTクロス、Tロック、ティグアンと、T3兄弟のSUVがリリースされていますが、その中で最もコンパクトなモデルがTクロス。登場当初は「TさいSUV」というのがキャッチフレーズでした。これは小さいけど強い。小さいけどスゴイ、小さいけど広い、的なイメージでとらえていただけるとわかりやすいかと思います。

 というのも、実際小さいんです。ボディサイズ的にはVWポロがベースですから、とてもコンパクト。全長×全幅×全高4135×1785×1580mm(Rライン)ですから、大きめの立体駐車場だったら入れちゃいそうなサイズ感なんですよね。

 そして、小さいのに室内は想像以上に広いんです。ホイールベースも2550mmとしっかり取られているのと、荷室部分の形状がオーソドックスな四角型なので、クーペスタイルのTロックと比べると、実際はTクロスのほうが積載量が多いほどの余裕があります。

 そのうえ、リアシートはスライド&分割可倒式。乗車人数や荷物の量によってシートアレンジは多彩に対応できますし、後席を最前にスライドした状態で荷室容量は455リッター。後席背もたれを倒すと1281リッターまで拡大できます。Tさいけれど、とっても頼もしいヤツなんです。

 とまぁ、このあたりはデビュー時とほぼ変わらないのですが、今回のマイナーチェンジでグッと上がったのは質感なんですよね。ダッシュパッドがソフトパッドになり、ステッチなども作り込まれたために、パッと見たときの印象からして違います。

 メーターは、今回の試乗車同様の8インチの液晶メーターだけでも十分だと思うのですが、もっと豪華仕様にしたい方は、10.25インチのデジタルコクピットプロが選べます。

 というのも、センターディスプレイはタブレット型に変更になりまして、センターディスプレイの位置が上方に移動したんですよ。マイナーチェンジ前はもう少し下に位置していたので、若干の視線の移動量の多さが、方向音痴の私としては気になったのですが、取り付け位置が高くなったことで、メーター画面にナビゲーション画面が映し出せる、デジタルコクピットプロじゃなくてもOKと、不安なくいえるようになりました。もっとも、ちゃんとしたナビがないと私は困るので、今回の試乗車にも付いている、ナビゲーションシステムを含むディスカバープロパッケージの装着は必要となりますが……。

 加えてもうひとつ朗報なのは、スタイルとRラインはフロントシートヒーターが標準装備になったことです。室内空間が高さ方向にも広いSUVにとって、足元が冷えがちな冬の快適空調は課題のひとつだと思うのですけれど、これならエアコンを控えめにしても、ホットカーペット原理で体を温めることができるので、結果として髪や肌が乾燥しにくくてありがたいのです。

 Tクロスは半分が女性ユーザーという販売実績もあって、マーケットの要望にきちんと耳を傾けてくれたのでしょうね。メーカーのこういった姿勢はうれしい限りです。

 他にも片側22個のLEDを使ったiQライト、いわゆるマトリクス型ヘッドライトや、ACCとレーンキープがセットになったトラベルアシストなどが標準装備となり、ロングドライブでの快適性もググッと向上しています。

 そしてなんといってもこのパワートレーンは、直列3気筒1リッターエンジンとは思えないほど元気いっぱいで思ったよりもパワフル、なのに静かなんですよね。乾式7速DSGもずいぶんとこなれてきて、発進時のギクシャクした感じもないですし、トラブルも聞かなくなってきました。なにより、燃費が17.0km/リッターという実力は、燃料代高騰のご時世助かります。実際、実燃費とカタログ値の解離性が少ないので、期待しても大丈夫な数値です。

 そして、パワートレーンや足回り系はどこが変わったとかリリースされていないのですが、実際乗ってみると軽快で、乗り心地もよくて、全体的に質感が上がっているんです。間違いなく1クラス上のクルマの仕上がりになっているんですよね。

 ボディカラーは、くすみカラーを含む幅広い世代にウケそうなバリエーションが設定されて、2025年は一度販売台数で抜かれたお兄ちゃん(=Tロック)を再び抜き返すかもしれません。

 Tクロスのヒットの理由は、Tサイからこそ必要なユーザーニーズを極めたところにあるような気がします。

VW T-Cross「ヒットの真相」

❶日本の道路事情にマッチしたコンパクトなボディサイズながら、室内は想像以上に広く、シートアレンジも豊富でとても使いやすい

❷マイナーチェンジで内外装の質感が向上したほか、シートヒーターを装備するなど快適性を向上させてクラスを超えた価値を提供

❸パワートレーンが熟成し1リッター直3エンジンはパワフルで静か。フットワークは軽快で乗り心地快適と、走りの質感が高い

たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 

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