VWティグアン eTSI R-Line/価格:7DCT 588万9000円。eTSIは可変シリンダーシステム(ACT)を組み込んだ1.5リッター直4ターボ(150ps/250Nm)を搭載。駆動方式はFF
従来の魅力を余すところなく継承しながら、すべてが新しい。7年ぶりにモデルチェンジした3世代目となる新型ティグアンが、いよいよ日本に上陸した。
日本では弟分のT-CrossやT-Rockのほうがポピュラーだが、ティグアンは2019年以降、グローバルでVWのベストセラーに君臨する主力モデルである。2007年に初代が登場して以来、760万台を超える販売を達成したというからたいしたものだ。
スタイリングは、ずいぶんと立派になった。歴代モデルの面影を受け継ぎつつも、ボンネットの位置を高くしてSUVらしい力強さを強調したことが特徴。Cd値は従来の0.33から0.28へと大幅に向上し、サイズはひと回り拡大している。それでも4540×1860×1655mm(R-Line)と、日本の道路環境でも持て余さない。
インテリアはぐっと先進的に変身した。「MIB4」へと進化を遂げたインフォテインメントシステムを象徴する大型ディスプレイが、まず目を引く。デコレーションパネルの斬新な模様も印象的だ。ライバル各車と比べると、車内は後席の居住空間が圧倒的に広く、装備も細部まで充実している。荷室も後席使用時652リッター、最大1650リッターと広くアレンジも容易。積載性に不自由する心配はなさそうだ。
メカニズムは正常進化。プラットフォームは「MQB evo」となり、パワートレーンはティグアンとして初となる1.5リッター・eTSIマイルドハイブリッドシステムを搭載したFWDモデルと、2リッター・TDIクリーンディーゼルに4WDを組み合わせた2タイプを用意。いずれも7速のDSGが組み合わされる。
車種体系はエントリーグレードのアクティブを起点に、LEDマトリックスヘッドライト「IQ.LIGHT HD」や運転席/助手席のシートリラクゼーション機能を標準としたエレガンス、専用の内外装と20インチアルミでスポーティに仕上げたR-Lineという3グレードが、それぞれのパワートレーンに対して設定される。
試乗車はガソリンエンジンのeTSI。駆動方式はFWDである。 150ps/250Nmを発生する1.5リッターターボは、48Vマイルドハイブリッドシステムが搭載された高効率仕様。オルタネーターとスターターを兼ねたBSG(ベルトスタータージェネレーター)は、モーターとしても機能し、トルクをアシストしてくれる。ドライブすると小排気量の1.5リッターとDCTの組み合わせながら、イメージ以上に軽やかに発進して加速する。かつて見受けられた、出足がスムーズでなかったりカチャカチャしたりというDCTのネガは、ほとんど感じない。
パフォーマンスは小気味いい。動力性能的にはこれだけ走ってくれれば十分だ。街中はもちろん高速クルーズでもストレスを感じる場面はない。エンジンが4気筒ということもあって、排気音に安っぽい印象はなく、パワートレーンが発する音の車内への侵入もずいぶん抑えられている。
また、強化されたアクティブシリンダーマネジメント機構(ACT)により、4気筒のうち2気筒をより頻繁に停止するほか、走行中にエンジンの停止〜再始動を行い、エココースティング走行に切り替えることもできる。
試乗中、シフトダウンしてもエンジンブレーキがあまり利かず、もう少し利いてくれたほうがリズムをつかみやすいように感じたが、効率としては現状がベストというのがVWの考えなのだろう。ちなみにWLTCモード燃費は15.6km/リッターをマークする。
今回はドライブできなかったが、2リッターTDIディーゼルは、排出ガスをクリーンにするSCRシステムを2つに増やしたツインドージングシステムを採用。193ps/400Nmと力強く経済的で、4WDの利点で走破性にも優れる。遠方へ出かけてアウトドアレジャーを楽しむようなユーザーに積極的にお勧めしたい。
足回りは、アクティブとエレガンスのガソリン車はコンベンショナルなサスペンションを採用。引き締まった味付けでやや硬さを感じる状況もあるが、この点もまたT-Crossと比べると後席も含め乗り心地に配慮されていることがうかがえる。
ステアリングの操舵力は軽く、従来よりも手応えがマイルドにな ったように感じたが、正確なハンドリングはしっかりと継承。自信を持ってドライビングが楽しめた。ディーゼル車とRラインのガソリン車には、複雑な制御を実現したアダプティブシャシーコントロール「DCC Pro」が標準装備される。これは伸び側/縮み側を独立したオイル回路とした2バルブ独立制御式ダンパーを装着したもの。一段と快適な乗り心地と、ダイナミックなハンドリングが味わえる。
eTSIの場合、エレガンスとR-Lineの価格差は約40万円ほど、印象的な内外装とともに、凝った足回りが味わえるのだから、むしろお買い得という気がした。
ティグアンは、弟分とはひと味異なる上質と洗練を身につけていた。優れた走りと利便性、装備の充実ぶりは、さすがVWのトップセラーである。いままで以上に多くのファンを獲得するに違いない。