【2025クルマの魅力】夢の実現、スーパーカー&ハイパーカー最前線

ランボルギーニ・テメラリオ。テメラリオは従来のウラカンの後継となるV8ミッドシップ。パワートレーンは新開発90度4ℓ・V8 ツインターボ(L411型/800cv/730Nm)+3モーター+8DCTで構成するPHEV。システム出力は920cvに達する

ランボルギーニ・テメラリオ。テメラリオは従来のウラカンの後継となるV8ミッドシップ。パワートレーンは新開発90度4ℓ・V8 ツインターボ(L411型/800cv/730Nm)+3モーター+8DCTで構成するPHEV。システム出力は920cvに達する

電動化でパフォーマンスアップを見事に実現。一方で「アナログ回帰」の流れも

 スーパーカーにおける「電動化」はパフォーマンスアップを意味する、否、意味しなければならない。フルバッテリー駆動はもちろん、ハイブリッドであってもだ。面白いことに、ハイブリッドにおける電気モーターはエンジンの魅力を引き上げる役割さえ果たすようになった。エンジンが不得手とする領域、つまり発進から低回転域までをモーターが巧みにカバーすることで、エンジンは得意な高回転領域に特化できるからだ。

 その最たる例がランボルギーニの最新モデル、テメラリオだろう。このPHEVスーパーカーには完全自社設計(要するにアウディ・グループ内でランボルギーニが主導的に開発した)の新型4リッター・V8ツインターボが積まれた。それがなんと10000rpmまで許容する「ハイレヴ」エンジンなのだ。兄貴分のレヴエルトに積まれたV12ももちろん官能的だったが、テメラリオのV8はことによるとそれ以上に「楽しい」ユニットになるかもしれない。

テメラリオ

 ことほどさようにスーパーカーに限らず高性能モデルの分野では電気モーター+マルチシリンダーエンジンのPHEVが常識になりつつある。その圧倒的なトルク性能と味わい深いエンジンフィールの組み合わせを知ってしまうと、エンジン単体でのパフォーマンスが実に物足りなく思えてくる。それゆえスーパーカーの将来は、PHEV専用エンジンがいっそう進化して、エンジンの美味しいところだけを味わわせてくれるようになるに違いない。同時に、ICEV(内燃機関のみのクルマ)へはもはや戻れなくなったユーザーの中から、とくにエキセントリックな人たちをフル電動(BEV)の世界へと導いていく流れになるだろう。2020年代の後半戦はハイブリッドスーパーカー全盛の時代になる一方で、いよいよメジャーブランド、たとえばフェラーリやランボルギーニによるBEVモデルが、まずは彼らのラインアップではユーティリティ寄りとなるカテゴリーで導入される展開になる。

BEVは未来を先取りする感覚が必須。ハイパーカーは純エンジン+MT回帰の傾向

 フェラーリやランボルギーニによるBEVモデルは、そのパフォーマンスの出し方において、現在一般的に存在する「フツウのBEV」とは大いに異なったものになるはずだ。スーパーカーというカテゴリーではつねに未来を先取りする技術が盛り込まれる。いってみればカテゴリーそのものがエクスペリメンタル。スーパーカーのBEVでは、ICEVを明確に上回るパフォーマンスとセンセーションが期待される(そうでないと買ってもらえない)。これまでにないドライブフィールが必須だ。「信じられない動き」をドライバーにコントロールしている、と思わせる制御技術がますます発展していくに違いない。

ランボルギーニ・ランザドール。ランザドールは2028年に登場予定のBEV。2+2構成のクーペとして開発されている。写真は2023年夏に発表されたプロトタイプ。ほぼこのプロポーションのまま登場するという。ヴィンケルマンCEOはランザドールを「ランボルギーニの黎明期を支えた350GT/400GTの伝統を継承した新たなチャレンジ」と説明。メカニズムの詳細は未公表だが、開発部門トップは「ドライバーはヒーローになった気分でメガワット級の高性能GTを操ることができる」と語る

ランボルギーニ・ランザドール。ランザドールは2028年に登場予定のBEV。2+2構成のクーペとして開発されている。写真は2023年夏に発表されたプロトタイプ。ほぼこのプロポーションのまま登場するという。ヴィンケルマンCEOはランザドールを「ランボルギーニの黎明期を支えた350GT/400GTの伝統を継承した新たなチャレンジ」と説明。メカニズムの詳細は未公表だが、開発部門トップは「ドライバーはヒーローになった気分でメガワット級の高性能GTを操ることができる」と語る

 一方でさらに上のクラス、ハイパーカーカテゴリーでは「異変」も起きている。フル電動ハイパーカーの販売がさほど振るわない一方で、自然吸気エンジンやマニュアルトランスミッションへの回帰が見受けられ、リッチカスタマーから大いに支持されているのだ。

 たとえばゴードン・マレー率いるGMAからリリースされたT.50やT.33といったハイパーカーには自然吸気の4リッター・V12ユニットが積まれ、多くのカスタマーが3ペダルマニュアルを選んでいる。パガーニも最新モデルのウトピアに3ペダルを設定した。MTは顧客からの要望が多く寄せられたために開発の途中で付け加えられた仕様で、オーダーの70%を占めている。

パガーニ・ウトピア。ウトピア(=ユートピア)は、Cカーに代表される1990年代のスポーツプロトを参考に、各部を最上の技術と素材で仕上げたハイパーカー。最先端のカーボンファイバーテクノロジーを導入し、完全新設計のシャシー&ストラクチャーを採用。パワートレーンはメルセデスAMGがパガーニ用に開発・生産する6リッター・V12DOHCツインターボ(864hp/1100Nm)。軽量設計のためパワーウェイトレシオは1.48kg/hp。駆動方式は2WD。ユーザーの70%が3ペダルの7速MTを選ぶという

パガーニ・ウトピア。ウトピア(=ユートピア)は、Cカーに代表される1990年代のスポーツプロトを参考に、各部を最上の技術と素材で仕上げたハイパーカー。最先端のカーボンファイバーテクノロジーを導入し、完全新設計のシャシー&ストラクチャーを採用。パワートレーンはメルセデスAMGがパガーニ用に開発・生産する6リッター・V12DOHCツインターボ(864hp/1100Nm)。軽量設計のためパワーウェイトレシオは1.48kg/hp。駆動方式は2WD。ユーザーの70%が3ペダルの7速MTを選ぶという

GMA T.50。T.50はマクラーレンのF1マシンをはじめ、数々の名車を送り出してきたゴードン・マレー氏が設立したGMA社が送り出す軽量ハイパーカー。2020年8月に発表され、2024半ばからデリバリーがスタートしている。伝説のロードカー、マクラーレンF1のような運転席を車両中央にレイアウトした3シーターで、パワーユニットは、最高出力を1万1000rpmで発生するコスワース製の4リッター・V12自然吸気(670ps/479Nm)。トランスミッションは6速MTのみ。100台の限定生産車

GMA T.50。T.50はマクラーレンのF1マシンをはじめ、数々の名車を送り出してきたゴードン・マレー氏が設立したGMA社が送り出す軽量ハイパーカー。2020年8月に発表され、2024半ばからデリバリーがスタートしている。伝説のロードカー、マクラーレンF1のような運転席を車両中央にレイアウトした3シーターで、パワーユニットは、最高出力を1万1000rpmで発生するコスワース製の4リッター・V12自然吸気(670ps/479Nm)。トランスミッションは6速MTのみ。100台の限定生産車

「運転する喜びの再発見」とでもいおうか。GMA T.50などは昨年半ばからデリバリーを始めたばかりだが、あまりのファン・トゥ・ドライブに多くの顧客が、ガレージに並べておくのではなく乗り回して楽しんでいる。1000km点検のようなイニシャルサービスが想定以上に早いタイミングで集中したという。

 ICEとMTの組み合わせは、ごく少量生産で超高額なハイパーカーカテゴリーゆえに成立するのかもしれないが、果たしてメジャーブランドや通常のスーパーカーカテゴリーへの波及があるのか。楽しみにしつつ見守っていきたい。

 パワートレーンやシャシー制御の向上に加えて、エアロダイナミクスやマテリアルの進化も著しい。これらすべての成果がパフォーマンスアップにつながるわけだが、同時にスーパーカーの価格上昇の要因にもなっている。とくにメジャーブランド、フェラーリやランボルギーニ、マクラーレンにおいてそれは顕著で、今後もニューモデルを中心にプライスアップは続く。彼らもまたハイパーカーカテゴリーにおいて確固たる地位を築いているが、その価格設定が上昇するたび通常のラインアップ領域におけるプライスタグも上がりがち。6億円のフェラーリF80が登場した今、通常モデルが6000万円スタートであっても安く感じる、というわけだろうか。

フェラーリSF90ストラダーレ/価格:8DCT 5442万円。SF90はSF(=スクーデリア・フェラーリ)誕生90周年記念車。リアミッドに4リッター・V8ツインターボを積み、8速DCTとの間に電気モーターを1基、フロントアクスルには2基のモーターを備える。システム出力は1000psに達し、パフォーマンスは「跳ね馬」史上最速級。0→100km/h加速は2.5秒、0→200km/h加速を6.7秒で駆け抜け、トップスピードは340km/h。圧倒的な速さに加え、通常走行をEVとしてこなすマルチ性も魅力

フェラーリSF90ストラダーレ/価格:8DCT 5442万円。SF90はSF(=スクーデリア・フェラーリ)誕生90周年記念車。リアミッドに4リッター・V8ツインターボを積み、8速DCTとの間に電気モーターを1基、フロントアクスルには2基のモーターを備える。システム出力は1000psに達し、パフォーマンスは「跳ね馬」史上最速級。0→100km/h加速は2.5秒、0→200km/h加速を6.7秒で駆け抜け、トップスピードは340km/h。圧倒的な速さに加え、通常走行をEVとしてこなすマルチ性も魅力

ランボルギーニ・レヴエルト/価格:8DCT 6543万円。レヴエルトはミウラ/クンタッチ(カウンタック)/ディアブロ/アヴェンタドールの系譜に連なるV12スーパーモデル。新開発6.5リッター・V12自然吸気ユニットと計3基のモーターを組み合わせたPHEV・4WDである。システム出力は1015hpに達し、パワーウェイトレシオは1.75kg/hp。8速DCTはV12の後方に横置きマウントされ、ボディ中央のセンタートンネルに駆動用リチウムイオンバッテリーを積む。トップスピードは350km/hオーバー

ランボルギーニ・レヴエルト/価格:8DCT 6543万円。レヴエルトはミウラ/クンタッチ(カウンタック)/ディアブロ/アヴェンタドールの系譜に連なるV12スーパーモデル。新開発6.5リッター・V12自然吸気ユニットと計3基のモーターを組み合わせたPHEV・4WDである。システム出力は1015hpに達し、パワーウェイトレシオは1.75kg/hp。8速DCTはV12の後方に横置きマウントされ、ボディ中央のセンタートンネルに駆動用リチウムイオンバッテリーを積む。トップスピードは350km/hオーバー

マクラーレンW1。W1はF1テクノロジーを積極導入した世界399台限定モデル。価格は220万ユーロ(約3億6000万円)。パワートレーンは新開発4リッター・V8ツインターボとeモデュールの組み合わせ。エンジンは直噴とポート噴射を組み合わせた高効率設計により928ps/900Nm、eモデュールは347ps/440Nmのエクストラパワーを発生。システム出力/トルクは1275ps/1340Nmと超弩級だ。駆動方式は2WDで、パフォーマンスは鮮烈。0→200km/h加速を5.8秒、0→300km/h加速は12.7秒で駆け抜ける

マクラーレンW1。W1はF1テクノロジーを積極導入した世界399台限定モデル。価格は220万ユーロ(約3億6000万円)。パワートレーンは新開発4リッター・V8ツインターボとeモデュールの組み合わせ。エンジンは直噴とポート噴射を組み合わせた高効率設計により928ps/900Nm、eモデュールは347ps/440Nmのエクストラパワーを発生。システム出力/トルクは1275ps/1340Nmと超弩級だ。駆動方式は2WDで、パフォーマンスは鮮烈。0→200km/h加速を5.8秒、0→300km/h加速は12.7秒で駆け抜ける

 スーパーカーは夢のクルマである。所有し、乗り回すという夢を実現するため、何事にも頑張るという人が世界中に大勢いる。生きる原動力にもなっている。スーパーカー、そしてハイパーカーの鮮烈なデザインと圧倒的な性能、そして何よりもドライビングの喜び。3つの進化はまだまだ続く。

西川さん

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