初代パジェロは1982年4月に登場した。1953年からJeepをノックダウン生産し、4WDに多くのノウハウを持つ三菱ならではのアイデアを傾注。悪路はもちろん、通常ユースも快適にこなす新世代のヘビーデューティ4WDに仕上げられていた。当初は商用車登録のショートボディだけの設定だったが、その後ワゴンやロングホイールベースを追加。日本だけでなく世界的なヒット作に成長する。パリ〜ダカール・ラリーでも好成績を収めた
三菱のニュー4WD、パジェロは、大いに気に入った。ルックスよし、走りよし、快適さもよし……三拍子も四拍子もそろっている。三菱は「乗用車感覚の4WD」と自慢しているが、誇張ではない。パジェロはタフな4WDだが、山岳路を走り回るときだけでなく、普段のタウンユースだって気持ちが高揚する。
パジェロのボディバリエーションは、メタルトップとキャンバストップの2種。ルックスは、両車とも素敵だ。とくにサイドのプロポーションは抜群。ボクは初代フォード・ブロンコが大好きなのだが、何となく近い雰囲気を持っている。
インテリアがまたゴキゲンだ。明るく、広々とした居住空間を作っている。前席はカッコいいバケットシート。適度に固く、振動減衰性に優れた高性能ウレタン製だ。運転席にはユニークな仕掛けが備えられている。シートフレームとフロアのフレームの間にパンタグラフ式のサスペンション機構を組み込んでいるのだ。悪路にかかると、クルマのサスペンションと同時に、このシートのサスペンションが作動して、ひどいショックを吸収してしまおうという仕掛けだ。
さっそく悪路をぶっ飛ばし、テストしてみた。路面の凹凸につれクルマが上下動すると、シートもスーッと上下に動く。しばらく飛んだり跳ねたり走り回っていると「これは実にありがたい装置だ」とわかってきた。ひどい悪路を乱暴に突っ走っても、サスペンションシートが上手にショックを吸収してしまう。
2300ディーゼルターボの性能も十分に高い。2000rpmを超えるとターボ効果が十分に出てくる。フルにターボを効かせると、かなりのダッシュを見せてくれる。
ところで、4WD車で快適なハイウェイ高速クルージングを楽しめるクルマは、まずない。トラック以下の荒い乗り心地と騒音に悩まされるのが一般的だ。パジェロ・ディーゼルターボはうれしい例外だった。オーバードライブレシオの5速ギアが100㎞/hでのエンジン回転数を3300rpmと低く抑えてくれる。もともと乗用車用に開発されたディーゼルだから静粛性の高さには定評がある。
乗り心地のよさでも、パジェロは印象的なレベルにある。4WD車の乗り心地の常識を、完全にひっくり返してしまった。1450㎏というウェイトとソフトなサスペンションの組み合わせは、ヘタな乗用車より楽な乗り心地を実現している、ピッチングの収まりがいいのも助かる。舗装路をハイペースで走りながら、素早いステアリング操作をすると、少し速く、大きくロールが出る。その点では、もうひと息ダンピングを上げたほうがいいような気がするが、パジェロの乗り心地は4WD車として超一級品である。
クラッチは軽く、ブレーキも軽い。シフトレバーの操作性は乗用車と同じだ。パワーステアリングも装着されるから、リラックスして運転できる。彼女とドライブに出かけ、ステアリングを彼女に任せたくなったとしても、パジェロなら喜んで運転を代わってくれるはずだ。
肝心のオフロード性能はというと、これがまたいい。本物のジャングルのような、タフでワイルドなオフロードランには、このソフトなサスペンションは少し弱い。だがボクたちが挑戦するオフロード、つまり草原、海岸の砂地、大小の岩がゴロゴロする河原や浅瀬、ぬかるみなら、標準サスのパジェロは、苦もなく走り抜けていく。荒れた路面をハイスピードで飛ばしても、接地性がよく揺れは少ない。
ヘビーデューティサスの4WDだと、こんなときダイレクトに路面からショックが伝わり、凹凸どおりにクルマは暴れ、乗り心地どころではない。パジェロなら快調そのもの、愉快に飛ばせる。
パジェロのいちばんの魅力は、タフな4WDでありながら、乗用車感覚の快適さが身についていることである。活発な走りと優秀な燃費を両立させている点も見逃せない。個性派、アウトドア派、そして4WD好きなら、パジェロを体験すべきだ。
※CD誌/1982年7月号掲載
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員