トヨタ・ヤリスクロスGRスポーツ・ハイブリッド/価格:THS 295万4000円。4180×1765×1580mmと小柄だが、張り出したフェンダーが強い存在感を主張。GRスポーツは専用形状の前後バンパーとリアロアカバーを採用。ボディも強化され、車高は標準車比で10mm低い
ヤリスクロスは、車名のとおりヤリスのSUVバージョン。日本と欧州をメイン市場とするワールドカーだけに多くの部分が専用に仕上げられている。
スタイリングは、力強く個性的。全長×全幅×全高4180×1765×1580〜1590mmと小柄ながら、ボトム部のクラディングパーツと大きく張り出したフェンダー、そして大径タイヤの組み合わせで、まるで大地に踏ん張るかのような安定感がある。
インテリアは機能的で装備は充実。このクラスでは珍しい運転席パワーシートやハンズフリーパワーバックドアの設定がうれしい。後者は従来のトヨタ車の2倍の速さで開閉するというスグレモノだ。加えて、電子制御パーキングブレーキやオートブレーキホールド機能も付く。
パーソナルイメージながら、室内空間と荷室が広いのもヤリスクロスの持ち味だ。着座設定は前後ともアップライト。4名乗車時でも長尺物が積みやすいよう、リアシートを3分割可倒式としたのが特徴だ。荷室容量は390リッターとクラストップ級。デッキボードは6対4分割で高さが調節できる。片側を下げて背の高い荷物を積み、もう片方は上げて後席を前倒しして荷室とフラットにつなげるなど独自の使い方ができる。
パワーユニットは1.5リッターハイブリッドと1.5リッターガソリン。2WDと4WDが選べ、ガソリン4WDは、マルチテレインセレクトを搭載。雪道でも走破性は十分なレベルだ。ADAS機能も充実している。
ヤリスクロスはユーティリティ、快適性、走りのすべてが高いレベルに仕上げられた実力派である。中でも個性が明確なのはGRスポーツだ。
GRスポーツは、走りはもちろん、内外装にも手を加えたスポーティグレード。エクステリアはフォグランプベゼルとリアディフューザーの意匠を変更。メッシュタイプのラジエターグリルとリアバンパーロアカバーは専用品だ。ワイド&ローなスタンスは素直にカッコいい。切削光輝の18インチアルミホイールも目を引く。
インテリアも精悍だ。シートはヌバックと合皮を組み合わせたスポーティ形状。各部の加飾部はグロスを抑えたダークメタリック塗装に統一された。
注目は走りである。GRらしい「走りの味」を目指し、GRヤリスの開発ドライバーがチューニングを担当。パワートレーンからシャシーまで細かく手を加えた。それでいて価格は標準モデルの最上級グレードと大差ない。試乗車はハイブリッド車である。
GRスポーツの走りの一体感は抜群。ドライビングが実に楽しい。ずっとステアリングを握っていたくなる気持ちよさを感じた。ベース車はそつなくまとまっている半面、あまり印象に残る部分がなかった。だがGRスポーツは明らかに違う。
パワートレーンは、モーターの過渡特性を最適化。加減速時のアクセルレスポンス向上を図った。カタログ表記のスペックは標準車と共通だが、良好な反応をダイレクトにタイヤに伝えるため、アクセルワークに対して気持ちよくクルマが応える。これはドライブシャフトのねじり剛性を向上させたことも効いているに違いない。
足も素晴らしい。車高を10mm下げてFALKEN製スポーツタイヤを装着したほか、ブッシュ、スプリング、ショックアブソーバー、電動パワーステをよりスポーティな特性にチューニングした。さらに、ボディ剛性向上のためフロア下とロアバックにブレースを追加している。
ベース車は乗り心地がよい半面、コーナーでのロールが大きく、ハンドリングはどちらかといえば曖昧。さほど運転して楽しいキャラクターではなかった。ところがGRスポーツは印象が一変。操舵に対して応答遅れのないリニアな操縦性と、軽快な回頭性を実現している。まさしく意のままに操れる。切る側だけでなく戻す側もキレイについてくるので修正舵も少なくて済む。
手応えの増したステアリングと、引き締まった足回りが生むフラットな乗り味、専用シートによるサポート感などからは、ドイツ車のような骨太な雰囲気が感じられた。これだけ走りがよいと後席の乗り心地が硬いのではと心配したが、そんなこともなかった。快適性への配慮もぬかりない。
ヤリスクロスに走りの楽しさを求めるなら、迷わずGRスポーツを勧める。適度にコンパクトな経済的なSUVで、スポーティなモデルは少数派。クルマ好きを魅了する本物志向の1台である。