2024年6月、フリードは3代目へとフルモデルチェンジを実施した。先代モデルは2022年にコンパクトミニバンの販売台数ランキングで1位を獲得していたものの、2023〜24年はライバルのトヨタ・シエンタに王座を譲っていた。しかし、新型は発売から1カ月で3万8000台を受注。完全に勢いを取り戻した。その理由を探ってみた。
2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞、おめでとうございます! いやはや。ここまで成長したんだね、すごいなぁというのが正直な感想。何を隠そう日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員を務めさせていただいている私も、フリードに3位の点数を入れさせていただきました。
でもこの際、誤解を恐れずにいってしまいましょう。2008年に登場した初代フリードは、ワタクシあまり好きではありませんでした。新しい小型ミニバンということで、かなり期待を持って試乗したのですが、正直なところ乗り心地がよくなかったんです。期待したぶん落胆も大きかったんです。
ところが、2016年に登場した2代目で「おやっ! これはスゴくイイぞ、新しいぞ!」と、フリードに対する印象がガラリと変わりました。まず3列シート車のベースモデルがあり、それに加えてフリード・スパイクの後継モデルとなる2列シート車のフリード+(プラス)が登場。こちらはしっかりと車中泊ができるような仕様になっているのはお見事でした。
そのフリード+をベースとして、車いす仕様車を設定してきたのが素晴らしかった。このいわゆる福祉車両を、通常のクルマと一緒に開発し、同じように使えるようにしたというラインアップ展開に感銘を受けたんです。
そして時は流れて2024年に3代目が登場したわけですが、エクステリアはエアーとクロスターの2本立て。パワートレーンはそれぞれ、ガソリンとe:HEV、FFと4WDと好みや用途に合わせて選べるのは好ポイントだと思いました。
2列目シートがキャプテンタイプになる6人乗りがフリード・シリーズのメインとなり、7人乗りはエアーの上級モデルの1グレード(FF)に設定されるだけになりました。
7人乗り=2列目がベンチシートとなるわけですが、一般的にベンチシートの大きなニーズは、子供が横になれるというのがポイント。なので、赤ちゃんのおむつ替えなどには適しています。プチバンと呼ばれるような小型ミニバンにはこういったニーズが高いのかと思ったのですが、フリードのバリエーション展開から判断すると、そうでもないということですよね。
もうひとつ、2列目ベンチシートは、チップアップ&スライド機構を持っているので、たたんでしまえばキャプテンシートよりも荷室容量が広く取れるというメリットがあります。しかし、フリードの場合は荷物をメインとするならば、そもそも5人乗りのクロスターがありますからね。それよりも3列目シートへウォークスルーできるアクセス性のよさのニーズのほうが大きかったということなのでしょう。
なにせフリードの3列目は、いわゆる子供専用のオマケ席ではなく、大人がそこそこの距離を、ガマンせずに移動できるスペースと装備が確保されていますから。これなら、大きなミニバンと同じような使い方でも、ある程度満足できるといっていいほどの空間です。
ちなみに、単純に荷物を積むのはもちろん、荷室をお部屋のように使いたい場合は、クロスターのほうが適しています。2列目はダブルフォールディングで、床面をフラットにたたむことができますからね。もはや運転席から後ろは、荷室というよりもお部屋感覚で使えてしまうんですよね。これはスゴイ!
そして福祉車両ですが、スロープタイプと助手席リフトアップタイプが、クロスターに設定されました。5人乗りがクロスターにしかないからという事情もありますが、より元気にアクティブに、といった印象が強いクロスターにはピッタリの設定だと思いました。
そんな感じでパッケージング的にも、市場のニーズを取り入れて進化しているわけですが、3代目は基本的に正常進化。いわゆる飛び道具的なものはありません。でも、初代ではイマイチだった乗り心地が格段によくなりました。いや、それどころかもはや3代目フリードは、乗り心地がイイといってもいいレベルなのです。リアクーラーも採用されたりと、全席での快適性が考慮された点もフリードの魅力だと思います。
e:HEV化するために全長は45mmほど長くなりましたが(全長4310㎜)、むしろ「これくらいまでに抑えた」というこだわりが、プチバンとして存在するからには賢明なところで、取り回し的な感覚は従来型と同じレベル。大きなクルマはちょっと……といった、ファミリーにも問題ないハズです。
それにやはりハイブリッド車は燃費もいいですから、荷物を積んで長距離ドライブというニーズには助かりますし、とくにモーターを使用するe:HEVのAWDは、レスポンスも早いし、しっかりとパワーも出ているので、アウトドアニーズにも応えてくれることでしょう。
きちんと市場の声を取り入れた正常進化、これがフリードのヒットの真相となりそうです。
1)見た目の異なるエアーとクロスターを設定、フリード初のe:HEV、5/6/7人乗りの設定、2WDと4WDを用意と、多様なニーズに対応
2)シャシーの完成度が高まって乗り心地がよくなった。e:HEVモデルは燃費がいいうえに、モーターならではの力強い走りが好印象
3)限られたボディサイズの中で、3列目の居住空間が広く視界も良好。シートのアレンジ性にも優れておりとても使い勝手がイイ
たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。